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[コラム]ポイントフォワード、ヤニス・アデトクンボの新たな挑戦(スティーブ・アシュバーナー)

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NBA史上最初のポイントフォワード(プレイメイキング能力に長けたフォワード)とも言われる往年の名選手マーケス・ジョンソンが、ミルウォーキー・バックスのヤニス・アデトクンボについて語った。

「フォワードの役割を忘れよう。彼はまさにポイントガードだ」。

ここ数週間のバックスのオフェンスを牽引する約211㎝の粗削りで多才なアデトクンボを、ジョンソンはこう評した。

「バックスがリバウンドを取ると、彼により多くの力が漲るように感じる。ボールを要求すると彼の眼は燃え上がり、チームのオフェンスをぐいぐいと引っ張っていく」。

現在バックスのアナリストを務めるジョンソンは、バックスとロサンゼルス・クリッパーズでオールスターに5回選出され、35年前には当時ヘッドコーチであったドン・ネルソンからボール運びとプレイコールを任されていた。すなわち彼は、ロバート・リード、ポール・プレッシー、スコッティ・ピッペン、レブロン・ジェームズといった、ウイングのサイズを持ちながらプレイメイキングにも長けたいわゆる「ポイントフォワード」の系譜に連なる存在である。

ところでアデトクンボのここ10試合ほどのプレイぶりは、まるで異様なまでに身長が引き伸ばされたアイザイア・トーマスやジョン・ストックトンのようである。彼はフロントコートにボールを運ぶ。そしてまるでチェスボード全体を俯瞰するかのように、ほぼすべてのディフェンダーの上から自らの駒であるチームメイトに指示を出す。

あるときにはギアを一段階上げ、マークマンに素早さとリーチの長さを活かした攻撃を仕掛ける。それはしばしば相手にとって致命的な一撃となる。そしてまたあるときには、リングに切れ込む味方を見つけ、クリス・ミドルトンやジェリッド・ベイレスにパスをする。そしてバックコートでプレイするかと思えば、フロントコートのポジションでプレイして脅威となることもできる。

「ポイントフォワードのポジションは、最初は単にオフェンスの起点となるというだけなんだ。マジック・ジョンソンのようにトランジションで目立とうとするわけではなく、ガードの負担を和らげるためのポジションだったんだ」。

「しかしヤニスはボールを前に運び、状況を分析し、インサイドに切り込み、そして敵を引き付けてフリーの選手にパスをする。ジェイソン・キッドHCから刺激を受け、彼はポイントフォワードという存在の次元を引き上げている」。


現役時代に名司令塔として活躍したジェイソン・キッドHCからポイントガードの手ほどきを受けるアデトクンボ Photo by NBAE/Getty Images

データを見てみよう。オールスターブレイク明けの10試合で、アデトクンボは平均38.5分のプレイタイムで19.1得点、10.3リバウンド、7.8アシスト、1.9スティール、そして2.0ブロックをあげている。平均19得点、10リバウンド、7.5アシスト以上の成績をあげた選手は、NBA史上でもアデトクンンポのほかにオスカー・ロバートソンとウィルト・チェンバレンの2人しかいない。

アデトクンボはこの期間で3回のトリプルダブルを達成し、ミネソタ・ティンバーウルブズ戦、ロサンゼルス・レイカーズ戦の両試合で5部門すべてにおいてゲームハイの活躍を見せた。その後のオクラホマシティ・サンダー戦でも同様の結果を残し、これはアキーム・オラジュワン以来の記録となった。

この記録を成し遂げたとき、7フッター(約213㎝)のセンターであるオラジュワンは27歳だった。一方のアデトクンボはまだ21歳で、しかもたったの1インチ(約3センチ)小さいだけでポイントガードのようにプレイできる。

「これは本当にスキルを要することなんだ」と言うジョンソンは、さらに次のように語る。

「あれほどの長身で、あれほどスムーズにドリブルをするのは、200㎝の選手が器用にドリブルをするのとはわけが違う」。

アデトクンボは次のように語った。

「今の目標は、常にアグレッシブであり続けることだね。常にまず得点をあげることを念頭に置いている。僕が得点を狙えば相手ディフェンスが崩壊すると分かっているからね。全員がペイントエリアに密集するんだ。そうなれば誰かがオープンになる。」

「自分で30本もジャンパーを放とうとは思わない。バランスを取ろうとしてるんだ。チームメイトをうまく巻き込んでいきたい」。

これはポイントガードの最優先事項であり、この役割を果たしていたマイケル・カーター・ウィリアムズは臀部の手術でシーズンの残りを全休、控えポイントガードのグレイビス・バスケスも足首の手術でベンチを温めることを余儀なくされている。アデトクンボは喜々としてこの役割を受け入れ、全うしている。

キッドHCとバックスは、現在プレイメイカーとしてのアデトクンボに自由を与えているが、成績が悪くなればそうもいかなくなるだろう。そうせざるを得ないというのが理由の一つであるが、現時点の成功をさらに追求すれば、今後の順位の飛躍に繋がるだろうか。いや、これらは全くの別物だろう。では、アデトクンボがプレイメイカーを務めるバックスは、果たしてモノになるだろうか?

ロケッツの暫定HCを務めるJ.B.・ビッカースタッフは「うまくいくように思う。彼にはその技術が備わっている。バックスには複数のボールハンドラーがいる。クリス・ミドルトンも、ジャバリ・パーカーも、O.J.・メイヨもボールハンドラーとして計算できる。だからアデトクンボは、まるでバックスにおけるクリス・ポールのようになる必要はなく、チーム全員をうまく利用すればいい」。

「これによって、ディフェンスと自らのマークマンにプレッシャーをかけることができるんだ。我々の前に210㎝、208㎝、208㎝、213㎝の長身選手が立ちはだかる。小柄な選手は一人だけ。彼らと対戦するときには、ポイントガードをどう配置するかという決断を迫られることになるだろうね」。

しかしバックスの選手たちは、ポイントガードがどこにいようと気にしない。彼らがポイントガードについて学ぶ上で最高の師であるキッドHCは、NBAで最もトリッキーな組み合わせの先発5人組に、指導面では単純明快さを意識している。

「段階を踏んで、着実に前進していく。アメリカンフットボールのようにね」。

キッドHCは新参者のプレイメイカーにとっての最も困難な挑戦は何か、との問いにこう答えた。

「1段階、2段階と一つ一つの過程をしっかりと吸収できるようになることだ。まず最初は自分の役割であったり、次にはピックやプレイをセットするチームメイトの役割であったりね。異なるパスコースを理解するのと同じで、一つ一つ理解していくことが重要だ」。

「だけど、長身フォワードの概念を変えたケビン・ガーネットやダーク・ノビツキーらを見てみると、アデトクンボのような長身選手はペリメーターでプレイすることでチームメイトの助けとなるという考え方もできるよね。これは異なるアングルのパスなのだ。私は背が高くなかったけれど、マジックのようにディフェンスの上からコートを見渡せることはアドバンテージだ」。

キッドHCの指導を受けるアデトクンボは次のように語った。

「あのジェイソン・キッドと練習後、試合前そして試合後に話す機会を持てるのは、素晴らしいこと。彼は僕に話しかけ、毎日助言をくれる。テレビゲームのチートコード(裏技)を持っているようなものだね」。


類まれな身体能力を併せ持つアデトクンボは自らペイントに切れ込み、豪快なスラムダンクを叩き込むこともできる Photo by NBAE/Getty Images

すべてはめまぐるしく変わり、ボールハンドラーとしてのアデトクンボへの対処の仕方をディフェンスは学んでいくだろう。複数のディフェンダーをつけるのも一つの手だ。サンダーは攻撃に対し壁を築き、ブロックに跳ぶことでパスかシュートの選択を迫る。シカゴ・ブルズはマイク・ダンリービーもしくはイートワン・モアがアデトクンボをマークし、ジャンプショットを阻むのが基本戦術だ。ダンリービーは以下のように語る。

「アウトサイドからのショットも安定的に決められるようになったら、恐ろしいね。ただでさえ彼をペイント内に入れると厄介だから」。

また、キッドHCはこう語る。

「アデトクンボがプレイメイクするのは、まだ新しい取り組みだ。ウルブズ戦ではリッキー・ルビオが彼をマークした。ロケッツ戦のときはトレバー・アリーザがフルコートでぴったりと張り付いていた。この2人はアデトクンボのパスを妨げて、彼を消耗させようとしていた。彼はこう思ったんじゃないかな。『ヘイ、俺にダブルチームしてくれよ。そしたら後はフリーの選手を見つけてパスするだけだ』ってね」。

ポイントガードのジェリッド・ベイレスは、コート上でのコミュニケーションがアデトクンボにとって最も重要だと語る。

「彼には誰も教えることのできない何かが備わりつつある。あの長身であのスキルを持つ彼だからこそできることで、他の誰にもできないことなんだ」。

アデトクンボは「自信はある。かなりね」と語った。

「ルーキーとしてこのリーグに入ってきたときを思い返して、現在の感覚と比べてみるとその差はとても大きい。素晴らしいことだよ。だから2年後にどんな感覚なのか想像もつかない。将来が待ちきれないんだ」。

見上げるほど背の高い、このひょろりとしたポイントフォワードの行く手には、栄光の未来が待っている。

原文:'Point forward' more than a novelty for Antetokounmpo by Steve Aschburner/NBA.com
翻訳:藤澤宗一郎

著者
NBA Japan Photo

NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ