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[NBAファイナル2017コラム]レブロン・ジェームズから感じられた「戦いきった達成感」(宮地陽子)

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ゴールデンステイト・ウォリアーズのロッカールームからシャンペンの匂いがただよい始めてきた頃、敗れたクリーブランド・キャバリアーズのレブロン・ジェームズは早々と着替えをすませ、記者会見の壇上でマイクを手に、質問に答えていた。

「個人的には、5試合ともすべて、コート上ですべてを出し切った。だから、後悔することもないし、失望することもない」。

「たとえばあなたが人生で最高のコラムを書いたとして、別のコラムが選ばれたとして、どう感じるかい? 気落ちするのではなく、『今回は自分の番ではなかった』と思うのではないだろうか。ゴールデンステイトは、戦いがいがあるチームだ。この3年、そして今年もリーグで最高のチームで、プレイオフを通してその力を発揮していた。僕らも彼らにとっては、倒すべき相手だったんだ」。

「ただ、チームの中で初めてここまできた選手たちが、トロフィーを手にできなかったことは残念だった。何よりも、そのことに心が痛む」。

“最強のチーム”ウォリアーズとNBAファイナルで対戦して3年目。今回は1年前のような奇跡の逆転劇は起きなかった。相手の強さを実感しているからなのか、どこか、戦いきった達成感も感じさせるコメントだった。

リーグにウォリアーズのような強豪がいる状況について聞かれると、ジェームズはさらに、こう語った。

「自分個人としては、これ以上見つけなくてはいけないことは何もないと思っている」。

「チームとしては、彼ら(ウォリアーズ)はしばらくいなくなることはないだろう。選手たちはほとんど20代。中心選手たちはみんな20代で、しばらくは落ちてくる気配もない。多くのチームが、プレイオフで彼らと対抗できるようなチームを作る方法を探そうとするだろう。彼らはまだ何年か継続できるように築かれたチームに見えるからね」。

NBA Finals 2017 LeBron James

NBAファイナルで敗れた後のジェームズの会見を見るのは、これで5回目だ。3回の優勝シーン以上に、ファイナルで敗れた後のジェームズの姿は印象的だ。過去には自らの成長を誓ったことも、引退を示唆するほど落胆を垣間見せたこともあった。

選手として常に進化し続け、世界一の選手という立場を確立し、チームに補強を求め、チームメイトたちを鼓舞して、やれることはすべてやりながら、チーム力で及ばず、敗れる。その姿は、劣勢のチームを率いては敗れる悲劇の主人公のように見ることもできる。

しかし、本当にそうなのだろうか。少し視点を変えてみると、彼ほど恵まれた選手はいないのではないだろうか。かつてのサンアントニオ・スパーズ、そして今のウォリアーズと、常に倒したいと思えるようなライバルがいて、その強敵を倒して自ら頂点を勝ち取る達成感を味わったこともある。これは、選手として最高のキャリアなのではないだろうか。

ジェームズに関して、ひとつ気になる噂がある。ファイナル中から、何人かの情報通の記者が、ジェームズはキャリア最後の数年をロサンゼルスのチームに移籍して過ごす可能性があると語り始めたのだ。移籍先にロサンゼルスの2チームが候補となっているのはビジネス面での繋がりのため、引退後を考えてのことだという。

今ファイナルのジェームズからは、気のせいか、どこか達観したようなコメントが多く聞かれた。それは、引退前のマイケル・ジョーダンやコービー・ブライアントの言葉を思い出させた。昨シーズン、故郷に優勝をもたらすという目標を達成したことで、彼はすでに無我の境地にたどりついたのだろうか。もしかしたら、引退へのカウントダウンが始まっているのだろうか──。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji

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