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[コラム]西C決勝プレビュー: タイプの異なる西の二強がファイナル進出をかけて激突(菅野貴之)

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NBAファイナル進出をかけた2016 プレイオフ・ウェスタン・カンファレンス・ファイナルのカードが、ゴールデンステイト・ウォリアーズ対オクラホマシティ・サンダーに決まった。

NBA年間最多勝利記録となるレギュラーシーズン73勝9敗を記録したウォリアーズの2年連続カンファレンス決勝進出は順当だったかもしれないが、サンダーの勝ち上がりを予想する意見は決して多いとはいえなかった。今季レギュラーシーズンで球団新記録となる67勝15敗をマークし、ホーム戦績でNBA記録に並ぶ40勝1敗という素晴らしい成績を残したサンアントニオ・スパーズが、サンダーの前に立ち塞がると考えられていたからだ。実際、スパーズがサンダーとのC準決勝第1戦に124-92で圧勝したとき、多くの人々が、C決勝はスパーズ対ウォリアーズの一騎打ちになると考えたことだろう。

だが、ケビン・デュラントとラッセル・ウェストブルックという強力デュオを擁するサンダーは、敵地での第2戦で1点のリードを守り抜いて98-97で逃げ切った。第3戦に敗れて1勝2敗となった後も、第4戦から3連勝を記録し、猛烈な勢いでスパーズを飲み込んだ。見事にアップセットを演じてみせたサンダーは、スパーズという大きな壁を突破し、王者への挑戦権を手にしたのだ。

二大エースを擁するサンダー

サンダーを取り巻く状況は、1年前と大きく異なる。

プレイオフを逃した昨季、人一倍悔しい思いを抱いていたのは、サンダーの二大エースの一角を担うデュラントだった。昨季は右足の負傷でわずか27試合の出場に終わった影響もあり、サンダーはニューオーリンズ・ペリカンズとのウェスト8位争いに敗れた。2013-14シーズンにシーズンMVPを受賞したデュラントは、昨季、ステフィン・カリーがキャリア初のシーズンMVPを受賞し、チームを40年ぶりの優勝に導き、リーグを代表するスーパースターへと上り詰める瞬間を見せつけられた。だが、今季のデュラントはリーグ3位の1試合平均28.2得点を記録し、MVP投票で5位に入るポイント数を獲得するなど、完全復活を周囲に印象づけた。

もし、現在NBAで活躍する選手の中から、得点力で2年連続MVPを受賞したカリーに対抗できる選手をあげるとすれば、デュラントは間違いなく筆頭候補に含まれる。これまで4度得点王に輝いたデュラントは、ダラス・マーベリックスとのファーストラウンドでこそフィールドゴール成功率36.8%と苦しんだが、スパーズとのC準決勝では50%に伸ばし、調子を上げている。

サンダーのもう1人のエース、ウェストブルックも今季はMVP級の大活躍だった。1981-82シーズンのマジック・ジョンソン以来初となる1シーズンで18度のトリプルダブルを達成したほか、自己最多となる1試合平均10.4アシストを記録し、その才能をオールラウンダーとして生かせるようになった。

4月11日(日本時間12日)のロサンゼルス・レイカーズ戦では、NBA史上2位の速さとなる前半終了までの出場18分でトリプルダブルをやってのけ、改めて驚異的な身体能力を証明した(歴代最速は1955年に出場時間17分で達成したジム・タッカー)。また、スパーズとのシリーズでは、シュートの多さが目立つ試合もあったものの、平均25.2得点、10.5アシストの好成績を記録。シュート数が多いことを反省してからは、マークについたディフェンダーに強烈なプレッシャーをかけながらオープンなチームメイトにパスを出し、オフェンスの統率に意識を向けた。この変化により、シュートを打つリズムも改善されている。

サンダーの対戦相手にとって、この二大エースがどれほどの脅威になるかは言うまでもないだろう。元チームメイトであり、現在デトロイト・ピストンズの先発ポイントガードとして活躍するレジー・ジャクソンは、今季レギュラーシーズン中の対戦後、彼ら2人を、「双頭のモンスター」と、巧みに言い表している。

サンダーに3戦全勝のウォリアーズ

スパーズを下し、勢いに乗るサンダーを迎え撃つのが、昨季王者のウォリアーズだ。今季のレギュラーシーズンでウォリアーズはサンダーを相手に3戦全勝を記録している。そして今季、サンダーが1勝もあげられなかったウェストのチームは、ウォリアーズしかいない。

3度の対戦で最も鮮烈な試合は、2月27日(同28日)の対戦だろう。オーバータイムにもつれる試合を決めたのは、終了直前に3ポイントラインより約10メートル手前の位置から超ロングシュートを決めたカリーだった。

そのカリーは、プレイオフに入ってから浮き沈みを経験している。ヒューストン・ロケッツとのファーストラウンド第1戦で右足首を痛めると、復帰した第4戦ではコート上で足を滑らせ、バランスを崩した際、今度は右ひざを捻挫するアクシデントに見舞われた。その後、2週間の戦線離脱を余儀なくされたが、チームは第5戦でロケッツを下し、ポートランド・トレイルブレイザーズとのカンファレンス・セミファイナルに進出した。

カリーが復帰したのは、ウォリアーズが2勝1敗でリードして迎えた5月7日(同8日)のC準決勝第4戦だった。当初は出場が微妙とされながらもアクティブリストに加えられ、ベンチから出場を果たすと、オーバータイムだけで記録した17得点を含む40得点の大活躍を見せ、132-125での勝利に貢献した。復帰したエースのパフォーマンスで王手をかけたウォリアーズは、第5戦にも勝利し、早々に2年連続のカンファレンス決勝進出を決めた。

けがをしても辛抱強く治療とリハビリを続けたカリーの精神力の強さも去ることながら、カリー不在の間、ウォリアーズの絆もさらに強くなったようだ。

右ひざを痛めた後、カリーが人目を憚らず悔し涙を流したとき、チームのモチベーターであるドレイモンド・グリーンは、「あいつら(ロケッツ)に泣いている姿なんて見せるな。あとは俺たちに任せておけ。お前のために勝つ」と、言い聞かせ、ロッカーに下がるのを渋るカリーに、早く治療と診察を受けるよう促した。

この試合では、“スプラッシュブラザーズ”の相棒クレイ・トンプソンも、カリーが下がった後の第3クォーターだけで4本の3Pを成功させて勝利に貢献した。トンプソンは、ロケッツとのシリーズ第4戦から3試合続けて7本の3Pを成功させたほか、ブレイザーズとのカンファレンス準決勝でも3試合で33点以上をあげ、ここまでチーム最多の平均27.2得点をマークしている。

カリー負傷により窮地に追い込まれながら、1年を通してチームを支えた主力やセカンドユニットがその穴を埋め、エースに精神的な負担を感じさせなかったのも大きい。カリーの負傷離脱というアクシデントは、逆にチームの一体感を高めたのだ。

両極端な2チームがC決勝で激突

今シリーズは、ウォリアーズに分があると予想する声は多い。昨季以上に破壊力を増したスプラッシュブラザーズ、オールラウンダーのグリーンを中心に、ショーン・リビングストン、昨季のファイナルMVP受賞者アンドレ・イグダーラら、他チームでは先発級の選手がバックアップを務めるウォリアーズの選手層の厚さがその理由のひとつだ。

しかし、プレイオフでのチームスタッツを見る限り、リバウンド、アシスト、スティール、ブロックともにグリーンが最多の数字を残すなど、攻守両面でグリーンに負担がかかりすぎている傾向が見て取れる。チームバスケットボールでウォリアーズに対抗したスパーズと異なり、サンダーはデュラントとウェストブルックという圧倒的な個の力で挑んでくるチームだ。勝利の方程式に不可欠なグリーンの負担を減らせなければ、シリーズの展開に影響が出る可能性も考えられる。

一方のサンダーは、やはり二大エース次第、ということに尽きる。だが、デュラントとウェストブルックがチームを引っ張るのはもちろん、サポーティングキャストの力を引き出すことができなければ、4年ぶりのファイナル進出は果たせないだろう。先発センターに定着したスティーブン・アダムズが、プレイオフ平均10.2得点という活躍を見せているのは良い兆しだが、さらにディオン・ウェイターズ、アンドレ・ロバーソン、アンソニー・モローらセカンドユニットもステップアップする必要があるはずだ。

これほど両極端で、エキサイティングな試合をする2チームがカンファレンス・ファイナルで激突する例は、稀だ。

四角いリングの上で拳を交えるボクシングの世界では、試合中に本来の能力を超え、対戦する者同士が共に高め合う、成長し合うという意味合いで、“ミックスアップ”という表現が頻繁に用いられる。より強固な団結力を手にした王者ウォリアーズに、圧倒的な個の力を軸に優勝候補を下したサンダーが挑戦する西C決勝は、どんな結末を迎えるにせよ、両チームによる“ミックスアップ”が起こるのは必然であろう。

文:菅野貴之(Bond) Twitter:  @10bond


2016 NBAプレイオフ試合結果


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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ