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レブロン・ジェームズ、故郷に初の優勝トロフィーをもたらせるか?

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偉大な選手は、壁を打ち破り、限界に挑み、さらなる高みを目指す。果たしてレブロン・ジェームズは、故郷オハイオ州クリーブランドに初優勝をもたらすことができるであろうか?

クリーブランドはスポーツ人気の根強い地域でありながら、40年以上もの間、プロスポーツの優勝から遠ざかっている。しかし、状況は変わった。チャンスが巡ってきたのだ。このチャンスはジェームズにとって最後ではないかもしれないが、オハイオ州に住む誰もが切望する優勝トロフィーをもたらすには最大のチャンスだ。

彼は、クリーブランド・キャバリアーズで成し遂げる優勝が、マイアミ・ヒートで成し遂げる優勝の10回分の価値があることを知っている。マイアミで2度の優勝を含む輝かしい4年間を過ごした後、ジェームズは磁石に吸い寄せられるようにオハイオに戻ってきた。

ジェームズは、NBAファイナルの舞台に戻ってくることが当然とは思っていない。6年連続のファイナル進出であり、周囲からすれば当たり前のことのように思えても、だ。

負傷者続出によりジェームズが1人でチームを引っ張り続けた昨年とは異なり、全員が健康な状態でファイナルに到達した。今季のチームは、自身の絶対的なパフォーマンス頼みのワンマンチームではないと、自信を持っているだろう。

ただ、街全体が待ち望む優勝パレードを現実のものにするには、ジェームズの最高のパフォーマンスが必要だ。ジェームズは言う。

「ファイナル開幕を迎えるにあたって、去年より良い準備ができているよ。僕にとって、優勝はすべてを意味する」。

もし優勝が実現すれば、ジェームズのキャリアに、また一つ栄光の歴史が刻まれる。ソーシャルメディア全盛の時代にあって、これほどまでに紆余曲折のキャリアを歩み、多くの人々の好意と敵意にさらされた象徴的なプロスポーツ選手は他に類を見ない。

セント・ビンセント・セント・メアリー高校に在学中、Sports Illustrated誌の表紙を飾り、試合はESPNで中継されるなど、多くの注目を集めた。NBAチームのスカウトたちがよだれを垂らすほどの逸材は、2003年当時、低迷していたキャブズからドラフト全体1位で指名された。

リーグ入りするや否や、ジェームズはNBAに一大旋風を巻き起こした。若いNBAファンから大きな支持を集め、将来の殿堂入り候補として注目された。キャブズに勝利をもたらし、多くのファンから愛され、リスペクトされる存在となった。

キャブズをNBAファイナルに導いたかと思えば、ボストン・セルティックスの壁に苦しみ、敗退後は相手を称えることなく会場を後にするなど、“わがままなスター選手”という悪評がついて回った。

そして2010年、フリーエージェントとなったジェームズは、7年間を過ごしたクリーブランドからマイアミへの移籍をテレビ中継で発表し、多くの批判を浴びた。

残留を熱望するキャブズではなく、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュという2人のスター選手のいるヒートに移籍したことで世間を敵に回し、とてつもない反感を買った。それでも、ヒート移籍後1年目のファイナルではダラス・マーベリックスに敗れながら、2年目から2連覇を達成し、批判を一蹴してみせた。

2014年、再びフリーエージェントになると、キャブズ復帰を決断。ヒート移籍時にはジェームズのユニフォームを燃やして批判したファンからもヒーローとして扱われた。

復帰1年目からキャブズを立て直したジェームズは、NBAファイナルで限界を超えるパフォーマンスを見せてウォリアーズを窮地に追い込むも、悲願の優勝は達成できなかった。そして今年、雪辱を期して1年ぶりのリマッチに臨む。


街の期待を一身に背負うレブロン・ジェームズ。故郷クリーブランドに錦を飾れるか?

これまでの13年間、周囲からは様々な見方をされてきた。しかしジェームズは、紆余曲折を経て、現在の自身のあり方に納得しているように見える。

3児の父として郊外で暮らし、息子のバスケットボールの試合を見る時間を大切にしている。数十億ドルもの価値を生む広告塔、アスリート、ビジネスマンという面だけでなく、生まれ育ったアクロン地域の子供たちのために尽力する慈善活動家としても、NBAで確固たる地位を築いた。

今なおMVPレベルでの活躍を続ける彼にも、未踏の仕事がある。バスケットボールに関する「To Doリスト」の中で成し遂げていない重要なこと、つまり、クリーブランドにタイトルをもたらすことだ。

そのことについて質問されれば、プレッシャーや、長年タイトルから遠ざかる街の人々の感情にチームメイトが押しつぶされないよう、控えめに語るだろう。その代わりに、貪欲な姿勢で勝利への思いを示すだろう。彼は正真正銘、クリーブランドを背負っているのだ。

ウォリアーズのエース、ステフィン・カリーが2年連続でMVPを獲得する活躍を見せるのを傍目に、ジェームズはレギュラーシーズン中からペースを調整し、プレイオフに向けて集中を高め、ベストプレイヤーとしての存在を高らかに宣言しようとしている。

「レブロンは、自分がどういう存在なのか、何を成し遂げたいのかをわかっている」と語るタロン・ルー・ヘッドコーチは、こう続けた。

「彼はすでに多くのことを成し遂げてきた。バスケットボールにおいても、コート外のことにおいても、彼が達成したいことは、残りわずかだ」。

ジェームズはまだ31歳と若く、活力に溢れている。これまでの知識をプレイに反映させるのに十分な経験を保持している。決戦に向け、準備は整った。ウォリアーズ打ち倒すためだけではなく、キャブズに優勝をもたらすために、自分自身を抑制できるほど、年齢的にも成熟した。キャブズが優勝すれば、クリーブランドの街は、ジェームズを建国の父のように尊敬するだろう。

昨年、ケビン・ラブとカイリー・アービングを故障で欠いたキャブズは、ジェームズ一人で全てを成し遂げなくてはならなかった。それでも、あと一歩のところまでウォリアーズを追い詰めた。振り返ってみれば、とてつもなくクレイジーなことだ。昨年、アンドレ・イグダーラはファイナルMVPに選出されたが、マッチアップしたジェームズはファイナルで平均35.8得点、13リバウンド、そして約9アシストというとんでもない数字を記録した。ファイナルMVPを決める投票を再度行なうには、さすがに遅過ぎるだろうか?

今年のファイナルでは、ラブが勝負所でアグレッシブに攻めるだろう。アービングも、ディフェンス面ではチームを救うことはできないかもしれないが、シュートと創造性に富むプレイで相手を苦しめるだろう。他のサポーティングキャストも頼りがいのある男たちが揃っている。トリスタン・トンプソン、J.R.・スミス、チャニング・フライ、そしてカリーが最も苦手とするディフェンダー、マシュー・デラベドーバも控えている。

ジェームズは今シーズン、キャリア最少となる平均35.6分しかプレイせず、試合終盤に活躍する頻度を抑え、チームメイトにヒーローとなるチャンスを譲ってきた。また、キャブズは今年のプレイオフで2敗しか喫していない。ジェームズがシーシュポス(ギリシャ神話に登場する人物。タルタロス山頂まで押し上げるたびに転げ落ちてしまう岩を繰り返し押し上げるよう運命づけられた)になる必要などない。 

ジェームズは、「彼ら(アービングとラブ)が健康でいることで、このチームは万全な状態になれる。この瞬間に本当に感謝しているよ。この特別な瞬間の一部になれたこと、そしてもう一度ファイナに挑戦できることをね」と、語る。

「僕たちは、さらにもう1年結束して、ケミストリーを構築してきた。この機会に興奮しているよ」。

もちろん、ウォリアーズは、ファーストラウンド、カンファレンス・セミファイナル、カンファレンス・ファイナルで下したデトロイト・ピストンズでも、アトランタ・ホークスでも、トロント・ラプターズでもない。これら3チームの最高のプレイヤーを集めても、ウォリアーズには及ばないだろう。

今季のウォリアーズは、リーグ史上トップ5のチームという議論に上がるほどのチームだ。つまりそれは、ファイナルの2~3試合で、ジェームズにモンスター級のパフォーマンスが求められることを意味している。場合によっては、それ以上になる可能性もある。

ジェームズも、「僕たちが対戦するのは、信じられないようなチームだ。脱帽するほどにね」と、ウォリアーズを称えている。

だが、ジェームズがいれば、試合をひっくり返し、相手の希望を粉砕することができるかもしれない。

アービングとラブが究極の舞台で戦う準備を整え、ジェームズはここまでの道を切り開いてきた。ウォリアーズとのシリーズは果たしてどうなるだろうか。

キャブズはどこかの時点で非常事態に陥り、ジェームズの獅子奮迅の活躍に勝利の糸口を求めることになるかもしれない。自信を高め、チームメイトを鼓舞し、勝利を待ちわびるクリーブランドのファンの思いも背負って戦うことになるだろう。

もし優勝できたとしても、ジェームズは必ずしも史上最高の選手とは評価されないかもしれない。しかしながら、”最も強靭な選手”として、歴史に名を刻むことになるはずだ。

原文:LeBron ready, prepared to lift Cavaliers, city to new heights by Shaun Powell/NBA.com


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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ