[書評]『マイケル・ジョーダン ~父さん。僕の人生をどう思う?~』――読者の闘争本能を焚き付ける刺激に満ちた一冊(片岡秀一)
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[書評]『マイケル・ジョーダン ~父さん。僕の人生をどう思う?~』――読者の闘争本能を焚き付ける刺激に満ちた一冊(片岡秀一)

マイケル・ジョーダンの半生を追った一冊に迫る

「人々は自分たちがマイケルのことを理解していると思っていたが、実際には理解していなかった」――。

『マイケル・ジョーダン ~父さん。僕の人生をどう思う?~』(東邦出版刊)の著者であるローランド・レイゼンビー氏は本書籍のプロローグで語っている。読者は冒頭の言葉が嘘ではないことを認識するだろう。

一般的に“バスケットボールの神様”と称されるマイケル・ジョーダンであるが、その言葉にはふたつの要因があるはずだ。ひとつは、代名詞ともなった滞空時間の長い跳躍力、ゲームを支配する卓越した技能。もうひとつは、彼のメンテリティや人間性、リーダーシップである。困難に挫けず、努力と挑戦の末、不可能と思われた壁を乗り越える。そのストーリーに人々は神の姿を見てきた。

著者は、彼を取り巻く物語の中で、一貫して彼の「闘争本能」に視線を向け、取材を重ねてきた。本人を含む、数々の関係者の証言の結晶が、約720ページに詰め込まれている。

ジョーダンは、本人でさえ制御不能な闘争本能を持つがゆえに、これまで、数多くの争いや対立を巻き起こしてきた。書籍の中には、チームメイトや経営陣にも手厳しく接するジョーダンの振る舞いも描かれている。攻撃の槍玉にされた人物の心情を連想し、目を覆いたくなるような場面も一度や二度ではなかった。

しかし同時に、「勝利への執念」に対する認識も変えてくれた。とくに「和をもって尊しとなす」文化を持つ日本人にはなおさらである。ジョーダンは、勝利のため、争いや対立も避けず、真っ向からチームメイト、コーチ、経営陣、対戦相手に立ち向かうことで関係を構築してきたようだ。数々のエピソードは書籍の中に詳しい。行動する勇気を与える書籍という範疇には収まらず、読者の闘争本能を焚き付ける刺激に満ちている。それが、本書籍の存在意義であると私は思う。

レイゼンビー氏の着眼点の広さも特徴である。「ジョーダンのバスケットボールキャリアを黒人差別の観点から紐解いている点が興味深かったが、ジョーダンの曽祖父の話や母デロリスのピープルズ家の話にまで遡ることで、よりいっそう鮮明になっている」と、訳者の一人である佐良土茂樹氏も語るように、時代は19世紀末、ジョーダンの血族の歴史にまで遡る。詳しくは本編に譲る。

本コラムの筆者が印象に残ったのは、NBA入団から初優勝までのストーリーだ。当時のシカゴ・ブルズの中で、アシスタントコーチとして大きな役割を果たした故人・ジョニー・バックの証言も数多く登場する。より鮮明に、当時のチーム状況を理解できた。フィル・ジャクソンのチーム作りの手法、テックス・ウィンターが提唱する「トライアングル・オフェンス」に対するジョーダンの苦悩、スコッティ・ピッペンとジョーダンを競わせるフィルの工夫、ジェリー・クラウスとの確執など、数々のエピソードに満ちていた。彼の苦悩や、闇の深さを知れば知るほど、歓喜の瞬間を一段深い部分で味わうことができた。

もちろん、読み手によって心に響く箇所は異なる。デビュー当時のコービー・ブライアントとの関係性にも非常に驚くと同時に、心温まる場面も多かった。


本書を読み進めると得られるもの。それは、今まで以上に色濃く、生々しく、彼を取り巻く物語への理解である。

ジョーダンが現役を引退してからずいぶんと時が経ったが、佐良土氏の言葉からは今を生きる人とのリンクが伺える。

「学生としてのジョーダンから、プロ選手としてのジョーダン、オーナーとしてのジョーダンへの推移を見られることが面白い点だと思います。どのレベルでもジョーダンはさまざまな問題に直面します。学生のときは一軍漏れをしたこと、プロのときはなかなか優勝へ辿り着けなかったこと、オーナーのときは周りとの関係をうまく築けないことなど、状況は違えど読者の方々も似たような経験をすることがあると思います。そのときにジョーダンはどうやってそうした状況に立ち向かったのかを見ることができる点は面白いかもしれません」。

文:片岡秀一 Twitter: @kataokachan
埼玉県草加市出身。1982年生まれ。 株式会社アップセット勤務の傍ら、ゴールドスタンダード・ラボの編集員として活動。クリニックのレポート、記事の執筆・企画・編集を担当する。クリニックなどの企画運営も多く手掛け、現在はEURO Basketball Academy coaching Clinicの事務局も務める。一般社団法人 Next Big Pivot アソシエイトとして、バスケを通して世界を知る!シリーズ 第1回セルビア共和国編では、コーディネーターとして企画運営に携わりモデレーターも務めた。


マイケル・ジョーダン ~父さん。僕の人生をどう思う?~

Michael Jordan The Life book cover

【出版】東邦出版
【著者】ローランド・レイゼンビー
【訳者】佐良土茂樹・佐良土賢樹
【価格】本体2,000円+税
【仕様】四六判 並製 736頁

公式ページ


 

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