[書評]『コービー・ブライアント 失う勇気 ~最高の男(ザ・マン)になるためさ!~』――親子二代にわたる「最高の男」への挑戦を掘り下げた一冊(大塚一樹)
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[書評]『コービー・ブライアント 失う勇気 ~最高の男(ザ・マン)になるためさ!~』――親子二代にわたる「最高の男」への挑戦を掘り下げた一冊(大塚一樹)

「NBAで最も好き嫌いが分かれた選手の生き様」を描いた話題の書籍

3年連続の同カードとなった2016−17シーズンのファイナルは、テレビ中継、ストリーミングともに好調で、マイケル・ジョーダンが最後にファイナルを制した1998年以来の視聴者数を記録した。観客動員数も3年連続で史上最高を塗り替え、「NBA人気」に限っていえば、ようやくではあるが“ポスト・ジョーダン”の時代を払拭したと言っていい。

一方、ジョーダン時代に比べると、ゲームの質の変化も顕著だ。豪華布陣同士のファイナルは、ステフィン・カリー、クレイ・トンプソン、ドレイモンド・グリーンにケビン・デュラントを加えたウォリアーズに軍配が上がった。“スーパーチーム”でなければ勝ち抜けない状況にますます拍車がかかり、NBAの“キング”たるレブロン・ジェームズ(キャバリアーズ)でさえ、ひとりですべてを決する絶対王者ではなくなっていた。

■NBAで最も好き嫌いが分かれた選手

本書の主人公、コービー・ブライアントは、“ポスト・ジョーダン”の時代と、ジョーダン神話から切り離された新しい時代をつなぐ存在だ。

「NBAで最も好き嫌いが分かれた選手の生き様」

書籍のキャッチコピーにあるように、コービーはプレイにおいても、コート外の生き様においても毀誉褒貶の激しい人物だった。

コービー・ブライアントと聞いて、あなたはどんなプレイを思い浮かべるだろう? ペネトレイトからのダンクシュート、相手の視野から消えるほどの素早いターンだろうか? クイックネスで相手を振り回してから放たれる異様に滞空時間の長いジャンプショットも捨てがたい。ライバルたちを苦しめたディフェンス能力に目が行く通もいるかもしれない。

圧倒的なスコアリング能力に恵まれたコービーは、ずば抜けた才能を持つ複数のプレイヤーが“チームプレイヤー”として機能する現代的なNBAにあって、最後の「フープに向かってしかプレイしない」プレイヤーだった。その圧倒的な得点力は、彼を嫌う人が必ず挙げる「セルフィッシュ」という弱点とつねに二律背反。コートを支配し、チームの総得点のほとんどを稼ぎ出せば出すほど、“アンチ・コービー”は彼を攻撃するというパラドックスが起きた。

■「ザ・マン=最高の男」であることを求め続けた男の物語

700ページに達する本書を貫くキーワードをひとつ挙げるとするなら、それは「ザ・マン」以外にあり得ない。著者のローランド・レイゼンビーは、コービーと、彼の父で、元NBAプレイヤーのジョー・ブライアントの親子二代にわたる「ザ・マン=最高の男」への挑戦を掘り下げている。

『ジョー・ブライアントのキャリアにおいて「頼りになる男とは呼べない」というフレーズは、絶えず付きまとうことになる。そしてその息子はその逆を言われることに命を注ぐことになる』

優れたプレイヤーでありながら、同時代の「ザ・マン」であったマジック・ジョンソンになれなかったジョーと、その呪詛を引き受けながら登り詰めていく息子のコービーという大河ドラマ的展開を読み解けば、彼のプレイを「セルフィッシュ」のひと言で片付けてしまうことがどれほどもったいないことかわかるはずだ。本書で描かれる家族を巡る物語は、単に親子鷹、サラブレッドの成功譚にとどまらない。時に物議を醸した彼の振る舞いのエクスキューズにはならないにしても、常人には想像し得ないプレッシャー、多くを期待され、手に入れたがゆえにおきる身近な人との軋轢も、多くの証言を得るという手法で描写されている。

父・ジョーに続いてコービーをある意味「縛る」ことになる“神様”マイケル・ジョーダンへの眼差しも面白い。“ポスト・ジョーダン”の十字架を背負いし者は数知れないが、ジョーダンが完成させたプレイスタイルを先鋭化させ、神がコートから去ったあとも神の幻影から逃げることなく真っ向勝負を挑み切ったのはコービーだけだったのではないか。

■新時代を迎えたNBAに残した強烈なメッセージ

アイソレーションからの1on1が減り、より確度の高いシュートセレクションを重んじるようになった現代のNBAを見ていると、その是非を問うより前に隔世の感を禁じ得ない。平均値で言えばプレイヤーの質は間違いなく上がっているし、圧倒的才能を持ったプレイヤーたちがハイレベルな攻防の中、キャッチアンドシュートでテンポよくゴールを決めていく姿も小気味いい。

それでもコービーが引退を表明した2015−16シーズンの“引退試合”が多くのファンの心を揺り動かしたことは紛れもない事実だ。

本書の訳者である大西玲央氏も、あとがきの中で次のジョーダンであるコービーに「嫌い」から入ったと打ち明けつつ、『アキレス腱を断裂した試合、そして引退試合では感動すら覚えました』と引退試合のインパクトを語っている。


キャリア最終戦で60得点。パスを求められても頑なに拒否し、「セルフィッシュ」と罵られてもフープに向い続け、20年在籍したレイカーズを5度のチャンピオンに導いた男の最終戦としては、これ以上ない幕切れだった。そしてそれは、「ザ・マン」を目指すプレイヤーが絶滅危惧種になりつつあるNBAに対する強烈なメッセージだったのかもしれない。

物語の最終盤、レイゼンビーは引退試合を終えたコービーの心境をこう代弁している。

『キャリアを通してなろうとしていたすべてをコントロールする存在、「ザ・マン」にようやく完全になることができたのだ。彼はすべてに対する答えを見つけることができたのだ。ただひとつ最も重要なものを除いて』

ポスト・ジョーダンの時代に傑出した存在感を見せた男は、現役最後の試合でポスト・ジョーダンという命題への答え、自らのキャリア、半生に対して満額回答を出した。

未読の方は『ただひとつ最も重要なものを除いて』というフレーズが気になるだろうが、これは半生への答えを見つけたコービーが人生を懸けて見いだしていくもうひとつの答えとも関係している。本書の筋としても重要な要素として描かれているので、ここは読んでのお楽しみとしたい。

「彼が僕らの世代のマイケル・ジョーダンだった」(ケビン・デュラント)

「コービーは、僕にとってのジョーダンだった」(ポール・ジョージ)

「コービーを見て育った。僕にとっての“ジョーダン”だ」(ジェームズ・ハーデン)

NBAの次代を担うスタープレイヤー3人がコービー引退に際して揃いも揃って「自分たちにとってのジョーダン」と発言している。コービーファンにしてみれば「コービーはコービー。いつまでジョーダンの話をしているの?」という思いもあるだろうが、これこそがコービーが背負った十字架の重さと、その十字架を17歳から20年のキャリアを通じて背負いきり、最後には解放されたコービー・ブライアントというプレイヤーに対する最高の賛辞ではないだろうか。

文:大塚一樹(おおつか・かずき) Facebookページ: https://www.facebook.com/kazukiotsuka.jp/

1977年新潟県長岡市生まれ。作家・スポーツライターの小林信也氏に師事。独立後はスポーツを中心にジャンルにとらわれない執筆活動を展開。スポーツメディア『VICTORY』(https://victorysportsnews.com)、『サカイク』(https://www.sakaiku.jp/)などに寄稿している。著書に『一流プロ5人が特別に教えてくれた サッカー鑑識力』(ソルメディア)、『最新 サッカー用語大辞典』(マイナビ)、構成に『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』(東邦出版)、『スポーツメンタルコーチに学ぶ! 子どものやる気を引き出す7つのしつもん』(旬報社)、『怒鳴るだけのざんねんコーチにならないためのオランダ式サッカー分析』(ソルメディア)など多数。


■書籍情報

kobe bryant book cover

【タイトル】コービー・ブライアント 失う勇気 最高の男(ザ・マン)になるためさ!
【出版】東邦出版
【著者】ローランド・レイゼンビー
【訳者】大西玲央
【価格】本体2,000円+税
【仕様】四六判 並製 704頁(口絵16Pカラー)
【ISBN】978-4-8094-1527-2


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