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[杉浦大介コラム第35回] ステファン・カリー 「僕がプレーする姿を見て、頑張れば自分にもやれるかもしれないと思う人はたくさんいるんじゃないかな」

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Stephen Curry Warriors

NBA入り以来、いやカレッジ時代から、ステファン・カリーは周囲の予想を遥かに上回る勢いで階段を駆け上がってきた。

デイビッドソン大学入学時は無名選手だったカリーが、3年生時のNCAAトーナメントでは母校をベスト8に導いて注目され、ゴールデンステイト・ウォリアーズに入団以降もスター街道を走り、“史上屈指のシューター”と呼ばれるようになった。

今季はウェスタン・カンファレンス最高の成績で突っ走るウォリアーズのエースとして、MVP有力候補に挙げられるほど絶好調。オールスターのファン投票でも全選手の中で最多の票を集めるなど、童顔の26歳はすでにリーグを代表するスーパースターとしてその地位を確立した感がある。

そのカリーが率いるウォリアーズは、現地2月3日〜3月2日までの全13戦中11戦をアウェイでプレーし、東海岸でも多くの試合を行なった。そこで筆者が聴いたコメントの中から、印象的なものをピックアップしてみたい。聡明さを感じさせる言葉の数々からは、今まさに旬を迎えている選手の自信と決意が伝わってくる。

周囲を見渡して、「僕はいったいどこにいるんだ?」と思った

——オールスターを挟んでロード戦が続いているけど、フィジカルの疲れは?

カリー:(ウォリアーズには)ケガを抱えている選手はそれほど多くはないから、フィジカル面では大丈夫だとは思う。ただ、ひと月の間にロードゲームが11戦で、ホーム戦は2試合だけなんていうスケジュールは、やはり身体に負担がかかる。その中でも僕たちはよくやってきたとは思う。(3月2日までの)ロード6連戦で3勝3敗は残念な結果だと感じていて、敵地でその成績で終わったことに落胆できるようなら、チームは良い状態だということ。

強いチームと対戦し、貴重な勝利もあった。何より良かったのは、勝ち負けにかかわらず、毎試合、すべての時間を戦い抜いたこと。多くのことが悪いほうに転び、一時的に大差を付けられたゲームでも、諦めずにプレーして終盤まで勝利のチャンスを残してきた。僕たちは大丈夫だよ。ホームに戻って、しばらく遠ざかっていた地元のファンの声援を浴びて、活気を取り戻し、また勝ち続けたいね。

——毎試合を大事に戦えたことはプレーオフの時期にも生きてくると思う?

カリー:正直に言って、(この時期の戦いが)プレーオフに関係してくるかは分からない。日々向上したいと思っていても、(3月2日のブルックリン・ネッツ戦の)前半のように、平坦なプレーに終始してしまうこともある。ただ、そんな状態からも立ち直り、追い上げられたことはこのチームの粘り強さを示しているのだろう。長い遠征の最後のゲームまで僕たちは戦い抜いた。こういった経験を通じて、より良いチームになっていることは確かだとは思う。

――最近ではウォリアーズの人気は全米に広がり始めていて、ブルックリンでのネッツ戦中には敵地にもかかわらずファンから「MVP!!」や「レッツゴー・ウォリアーズ!」コールを浴びていたね。

カリー:一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなったよ。(ネッツ戦は)特に前半は動きの少ないゲームだったから、接戦になった終盤にファンはエキサイトしたんだろうね。追い上げる途中、自分たちのファンがたくさん観にきてくれていることに気付いた。3点シュートを決めた直後、タイムアウトを取った際の声援が凄かったから、周囲を見渡して、「僕はいったいどこにいるんだ?」と思ったくらいだ。

——個人的にも今年はMVP候補に挙げられる素晴らしいシーズンになっている。カレッジ入学当初は無名選手だった君が、ここまで辿り着いたことを自身ではどう感じている?

カリー:クレイジーな経験だ。とにかく少しでも良い選手になって、成長して、そしてこの流れを楽しんでいきたい。こんな風になるなんて思ってもいなかったから、まるで夢のようだよ。こうして夢が現実になり、ロードゲームでもファンから声援を送ってもらえるなんて本当にクレイジーだ。こうやって良いプレーを続け、毎年何か新しいものを加え、向上していきたい。これからもこの素晴らしい日々を続けていきたいんだ。

――オールスター中には、レブロン・ジェイムズ(クリーブランド・キャバリアーズ)も今季のMVP最有力候補として君を名指ししていた。

カリー:(レブロンは)MVPを4度も勝ち取ってきた選手だから、そのために何が必要かももちろん分かっている。(その選手に賞讃されることで)自分のやっていることが正しいという気にさせられる。願わくは(MVP獲得という)夢が叶えばと思う。

――2年前にはオールスターに落選して「最大のSnub」(選ばれるべきだった選手)に挙げられた君が、今季は最多得票を得るに至った。レブロンのような怪物的選手に比べ、小柄な君はより身近な存在に感じられるのが人気の一因じゃないかとスティーブ・カーHCは話していた。

カリー:確かに僕は身体能力に恵まれたタイプではない。身体つきとか、見た目は普通に見えるのだろう。40インチ(101.6cm)もジャンプできてしまう選手とは違い、僕がコート上でプレーする姿を見て、頑張れば自分にもやれるかもしれないと思う人はたくさんいるんじゃないかな。

——(今年のオールスターはニューヨークで行なわれたが、)2009年ドラフトでウォリアーズが全体7位で君を指名していなかったら、8位指名権を持っていたニックスが指名できていたという話はニューヨークでは語り草だ。

カリー:その話はよく耳に入ってくるよ。(マディソン・スクエア・ガーデンでプレーする際に)コートへのトンネルを歩いているときに、「もう少しでおまえを指名できたんだ」とか、そういったことをファンから言われる。(ニックスから)指名されていたらどうなっていたんだろうと考えることもある。ただ、僕はゴールデンステイトでもう6年間を過ごし、素晴らしい時間を経験してきた。ドラフトのことに関してまだいろいろなことを言われ、ツイートをもらったりするのは不思議な感じだ。

——君と“スプラッシュブラザーズ”を形成するクレイ・トンプソンも先日、初のオールスター出場を果たした。彼の成長をどう見る?

カリー:彼と一緒にプレーできるのは特別なことだ。毎シーズン、彼は何か新しい武器を加えてくる。ディフェンス面ではウィングにもポイントガードにも、どちらにもマッチアップできる。オフェンス面ではシュート力が素晴らしい上に、今ではプレーメイキングもできるようになって、フリースローを得たり、パスを出す選手を見つけたり、自らリムにアタックしたりするようになった。攻守両面をこなせるという意味では、僕は彼が最高のガード選手だと思っている。彼の伸びしろは無限大だよ。


2月7日~3月2日までの間に、ニューヨーク、フィラデルフィア、ワシントンD.C.、ブルックリンでウォリアーズのゲームを取材したが、カリーとの1対1のインタビューは叶わなかった。童顔ゆえに親しみ易い印象を与えるカリーだが、今ではリーグ最高勝率チームのフランチャイズプレーヤー。人気、話題性は高まり、単独インタビューは難しくなる一方である。

そんな中で、ワシントンD.C.にて、あるテレビ局の女性ライターが見事に1オン1で話を聴くチャンスをゲットしていた。経緯を聴けば、彼女とカリーはデイビッドソン大時代の同級生だったのだという。

親しい友人同士とは言えないまでも、顔見知りだった2人は、記者として、選手として、“アメリカの首都”のアリーナで再会を果たした。慌ただしい遠征先でもカリーが彼女のために時間を割いたのは当然だったのだろう。

「学生時代のカリーは親切で礼儀正しく、どちらかといえば内気だった。そして、彼は今でも当時と大きく変わったようには見えなかった」

無名選手からスーパースターに成長しても、元同級生の本質は以前のままだったと彼女は言った。取材を終えた彼女が、どこかホッとしているように見えたのは筆者の気のせいではなかったのだろう。そして、何より、そんな彼女の言葉から、カリーの素のままの姿が透けて見えてくるかのようだった。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

著者
杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。