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[杉浦大介コラム第34回] 2015 NBAオールスターに“選ばれるべきだった選手たち”

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Brandon Knight Bucks Damian Lillard Blazers Kyle Korver Hawks

残り1週間に迫った2015 NBAオールスターゲームのロースターには、今年も豪華なメンバーが揃った。ただ、例年のことだが、満場一致の人選だったわけではない。1月29日にリザーブが発表されて以降、疑問の残る選考に対する不満の声も挙がった。

今年度最大の「Snub」(選ばれるべきだった選手)は誰なのか。ここでは3人の名前を取り挙げ、落選に至った事情を分析してみたい(成績は現地2月8日時点)。


ダミアン・リラード(ポートランド・トレイルブレイザーズ)

2014-15成績: 平均21.7得点、6.3アシスト、4.7リバウンド

今回最も物議を醸したのは、3年目にしてリーグ有数のクラッチプレーヤーとして知られるようになったリラードが最初の発表で落選していたことだった。

当初はケガで辞退したコービー・ブライアント(ロサンゼルス・レイカーズ)の代役として繰り上げ選出が有力視されたが、アダム・シルバーNBAコミッショナーはコーチ間投票で次点だったというデマーカス・カズンズ(サクラメント・キングス)を選出した。この時点では、「MVP候補に挙げられてしかるべき」(ESPN.comのブラッドフォード・ドゥーリトル記者)とさえ評された選手の球宴不出場は確定的に思えた。

「僕が(オールスターに)十分ではないと考えたコーチ、ファン、アダム・シルバーに感謝したい。(軽視されたのは)初めてではないし、そうやってやる気をかきたてられてきたんだ」。

昨夏のFIBAワールドカップでのアメリカ代表ロースター落ちに続いての失意を味わったリラードは、落胆、決意の入り交じったそんな書き込みをソーシャルネットワーク上に残して話題にもなった。

ステファン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)、クリス・ポール(ロサンゼルス・クリッパーズ)、ラッセル・ウェストブルック(オクラホマシティ・サンダー)、ジェイムズ・ハーデン(ヒューストン・ロケッツ)、クレイ・トンプソン(ウォリアーズ)と揃ったウェスタンのガード陣は層が厚いだけに、やむを得ない部分もあったのかもしれない。

ただ今季のリラードは、ポールを平均得点で約4点も上回り、故障離脱もあったウェストブルックよりも14戦も多く出場してきた。ブレイザーズを群雄割拠のカンファレンスで上位に導いてきた立役者であることも考えれば、本人、ファンともに納得できなかったとしても当然だろう。

この件は結局、8日に意外な形で落着する。 ひじの手術を受けることになったブレイク・グリフィン(クリッパーズ)が辞退を表明し、代わりにリラードの繰り上げ選出が発表 になったのだ。おかげでファン、関係者の間で論議を呼んだ今年最大の「Snub」が、オールスター週末まで語られ続けるという事態は免れている。

ただ、同じポジション、1つのカンファレンスにタレントが集中することは来年以降も考えられるだけに、同じような事件は再び起こり得るだろう。

「ダミアンのためのスポットがあれば、と思う。彼はオールスターに選ばれるに相応しい。私はロースター拡大に賛成だ」。

まだリラードの繰り上げ選出が決まっていない段階で、ESPNのラジオ番組に登場したシルバー・コミッショナーはそう語り、いずれオールスターのロースターを13~15人に拡大する可能性に言及した。

オールスター選手の希少価値を薄めるプランに賛否はあるはずだが、改革に積極的な新コミッショナーなら実現させても不思議はない。今回の件が制度改正にまで繋がるとしたら、“リラードの一時落選”は、近い将来により大きな意味を持って語られることになるかもしれない。


カイル・コーバー(アトランタ・ホークス)

2014-15成績: 平均12.9得点、2.7アシスト、4.3リバウンド

イースタン・カンファレンスでは、コーバーの選考漏れが最も大きな話題となった。主要スタッツだけを見れば、それを怪訝に思う人もいるかもしれない。

今季の成績は一見すると平凡で、平均15得点、5アシスト、5リバウンドのどれにも達していない(15-5-5を1つも超えずに球宴に選ばれたのは、1988-89シーズンのカリーム・アブドゥル・ジャバーのみ)。イースタン首位のホークスからはアル・ホーフォード、ジェフ・ティーグ、ポール・ミルサップが選出されているだけに、4人は多過ぎるという意見もある。

それでもコーバーの名前が特筆されたのは、今季の彼がシューターとして歴史的なシーズンを過ごしているからだ。ここまでフィールドゴール成功率51.8%、3ポイントシュート成功率53.1%、フリースロー成功率92.0%という数字は驚異。過去にシーズン平均成功率で「50-50-90」をクリアしたのは1995-96シーズンのスティーブ・カーだけで、そのカーも先発出場は1年を通じてゼロだった。

「ホークスから4人を選ぶことを躊躇うのは私も同じだが、コーチ陣はコーバーがどれだけ特別なシーズンを過ごしているかに注意を払うべきだった。ホークスのオフェンスは、コーバーがスクリーンの間を走り回って相手ディフェンスの注意を引きつける動きが中心になっているのに」。

ESPN.comのアミン・エルハッサン記者の指摘通り、スターターで平均33分をプレーする今季のコーバーは、重要な武器としてマークもされながらこれだけの数字を残してきた。“スターではなくロールプレーヤー”という指摘はもっともだとしても、その職人芸は球宴選出という形で讃えられてしかるべきだったようにも思える。

ただ、イースタンのリザーブガードに選ばれたドウェイン・ウェイド(マイアミ・ヒート)は右足ハムストリングを痛めており、辞退となる可能性も高い。その際には、シルバー・コミッショナーがこのオートマチックなシューターを代役に選んでも不満の声は出ないはずである。


ブランドン・ナイト(ミルウォーキー・バックス)

2014-15成績: 平均17.9得点、5.4アシスト、4.2リバウンド

やや地味な存在のナイトだが、今季はキャリア最高の活躍で若手の多いバックスを支えてきた。期待の大きかった新人ジャバリ・パーカーがひざのケガで離脱後もチームのペースが落ちなかった要因として、ジェイソン・キッドHCの統率力と共に、ナイトのコート上のリーダーシップも挙げられる。

イースタンで勝ち越している6チームのうち、球宴に1人も選出されなかったのはバックスだけ。ホークスに次ぐサプライズとなっているチームを代表して大舞台に臨むとすれば、“過小評価されている選手”と称されるようになったナイトこそが相応しい。

ただ、そうは言っても、ジョン・ウォール(ワシントン・ウィザーズ)、カイル・ロウリー(トロント・ラプターズ)、カイリー・アービング(クリーブランド・キャバリアーズ)、ティーグ、ウェイドといったイースタンの他のガード選手たちと比べると、知名度、貢献度の両面でナイトはやや落ちるのも事実だ。それゆえに、この23歳のPGを「Snub」とまで呼ぶのははばかられる。

ウェイドが辞退となったとき、代役は上記のコーバーか、華やかさと人気を買ってデリック・ローズ(シカゴ・ブルズ)か。それとも躍進中のバックスの主軸となったナイトが抜擢されるか。シルバー・コミッショナーは難しい選択を迫られることになりそうだ。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura


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杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。