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[杉浦大介コラム第32回] キャブズ、サンダー、ニックスの大型トレード、その勝者は!?

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Derek Fisher Phil Jackson Knicks

1月5日(日本時間6日)にクリーブランド・キャバリアーズ、ニューヨーク・ニックス、オクラホマシティ・サンダーの間で成立したブロックバスター・トレードは、NBAに小さくない衝撃を与えた。合計6選手、2つのドラフト指名権が絡んだ大型移籍劇は、今後のリーグの勢力地図に少なからず影響を与えることも十分に考えられる。

この3チームは、いったいどんな思惑、目的で今回のトレードをまとめたのか? ここではそれぞれの現状とトレードの意味を探り、各チームの未来を占っていきたい。

■クリーブランド・キャバリアーズ ~必要なギャンブル~

獲得
J.R.・スミス
イマン・シャンパート
サンダーの将来のドラフト指名権※

放出
ディオン・ウェイターズ
アレックス・カーク
ルー・アマンドソン
2019年のドラフト2巡目指名権

レブロン・ジェイムズ、ケビン・ラブを獲得し、カイリー・アービングと合わせて新ビッグ3を結成したキャブズだが、今季はここまで19勝16敗ともうひとつの成績に終わっている。このチームの弱点は、端的に言って「層の薄さ」「ディフェンス難」「サイズ不足」の3つだ。今回のトレードで、そのうちの「層の薄さ」「ディフェンス難」の解消を狙ったことは明白である。

身体能力が自慢の24歳のシャンパートは、1オン1に強いペリメーターディフェンダーとして定評がある。キャブズでは衰えの目立つショーン・マリオンに変わり、先発SGを務めることが濃厚。オフェンス面でも速攻時のフィニッシャーとしては有用で、キャリア平均34.4%という3ポイントシュートの成功率もディフェンスを惹き付けるのが上手いレブロンと一緒にプレーすれば上がるだろう。

「イマンとJ.R.を迎え入れることができて興奮している。彼らはサイズと万能性をチームにもたらし、我がチームに攻守両面で貢献してくれるだろう」。

デイビッド・グリフィンGMがそう述べた通り、実際に特に好ディフェンダーであるシャンパートは、攻守両面でキャブズにぴったりとハマっても不思議はない。

不安要素があるとすれば、シャンパートとともに獲得したスミスの不安定さか。個人プレーに走りがちで、自らシュートを打ちたがることで知られるスミスは、チーム内でやや浮いた存在で、ついに今回放出されることになったウェイターズと特徴、性格ともに被る。

そのスミスも移籍直後はチームに適用しようと努めることは考えられ、そうなれば貴重な控えの得点源になる。ただ、もしも得意の”暴走”を続けた場合、640万ドルのプレーヤーオプションを行使して残留濃厚な来季まで、チームの頭痛の種となり続けてしまう可能性は否定できない。

「ビッグ3の1年目が3分の1を終えた段階で実行するには、リスクの大きいトレード。ただ、現在のメンバーが力を発揮するために、より早く手を打つ必要があると感じたということ」。

ESPNのラモナ・シルバーン記者がそう記している通り、ここまでやや期待外れのキャブズにとって、このトレードは必要なギャンブルなのだろう。

ともにキャラの立ったシャンパート、スミスがどうチームに溶け込んでいくか。不仲も噂され始めたレブロンとデイビッド・ブラットHCが、2人の新戦力の力をどう引き出すか。今季最大の話題チームであるキャブズに、ここでまた新たに興味深い注目材料が加わったことになる。

■オクラホマシティ・サンダー ~諸刃の剣をどう扱うか?~

獲得
ディオン・ウェイターズ

放出
ランス・トーマス
将来のドラフト指名権※

2012年のドラフト全体4位で指名されたほどの好素材で、まだ23歳と若いウェイターズのようなタレントをシーズン中に手に入れるチャンスなどそうあるものではない。今季は不調と言われてきたが、それでも平均10.5得点。とにかく得点力は抜群で、やる気次第で守備面でも貢献できる選手でもある。

「ディオン・ウェイターズは我々が探し求めていた選手。シラキュース大、NBA、そしてアメリカ代表でのプレーを気に入っている。我々にとってポジティブなインパクトを与えてくれる実績あるスコアラーであり、ロスターに深みと柔軟性をもたらしてくれるだろう」。

サム・プレスティGMの言葉もそれほど大げさには聴こえない。サンダーはほかにもアンドレ・ロバーソン、アンソニー・モロウ、ペリー・ジョーンズ、ジェレミー・ラムと多くのウィングプレーヤーを擁しているが、その中でもタレントではウェイターズが抜きん出ている。移籍直後から多くのプレー時間を与えられ、すぐに主力的な立場となっていくかもしれない。

ただ、キャブズに移籍したスミス同様、ウェイターズを起用するリスクは小さくはない。キャブズの一部の主力選手と不仲だったと噂されたウェイターズが、アーロン・ブルックスHCが手綱を握るサンダーの厳格なカルチャーに合うかどうか。プレースタイル的にもレブロン、アービングと噛み合なかったボール独占型のスコアラーが、同じく個人技重視のケビン・デュラント、ラッセル・ウェストブルックと上手くやっていけるのかどうか。

上手くいけばリーグ有数の層の厚いベンチが出来上がるだけに、今季のファイナル制覇を狙うサンダーにとって、ドラフト1巡目指名権を見返りに放出するだけの価値あるトレードではある。新天地でウェイターズがポテンシャルを完全開花させた場合、ジェイムズ・ハーデン移籍以降、探し求めていた“チーム第三の武器”としてその立場を確立する可能性も十分にあるだろう。逆に、チームに適応できなかった場合、来季も510万ドルの契約を残すウェイターズは厄介な存在に成り得る。

その莫大なタレントは諸刃の剣。今季が終わる頃までに、ウェイターズがどんな役割を担うことになるかに興味は注がれる。

■ニューヨーク・ニックス ~2015年夏を睨んだ未来への一歩~

獲得
アレックス・カーク
ルー・アマンドソン
ランス・トーマス
キャブズの2019年ドラフト2巡名指名権

放出
J.R.・スミス
イマン・シャンパート
サミュエル・ダレンベア(解雇)

ニックスが獲得した3選手はすべて無保証契約の選手で近日中の解雇が濃厚視されるなど、一見するとほぼ何の見返りもないままシャンパート、スミスという2人の主力級を出してしまったように見える。ただ、このトレードの最大の目的が“不良債権の放出”“経費削減”だったことは一目瞭然だ。ここでニックスは未来に向けて大きな一歩を踏み出したと言っていい。

「今季を通じて、目指すスタイルにフィットする選手を探すつもり。我々は競い合える戦力を得るために情熱を注いでいく。今回の人事は、現在のロスターと将来のシーズンに向けたサラリーキャップの柔軟性をもたらすものだ」。

フィル・ジャクソン球団社長のそんな言葉が示唆する通り、“禅マスター”が標榜するトライアングル・オフェンスにフィットしないスミスは、長期的にチームに残したい選手ではなかった。ここで放出に成功したことで、来季のサラリーキャップからスミスのプレーヤーオプション640万ドルを処分できたことになる。

また、時を同じくしてサミュエル・ダレンベアも解雇し、この一連の動きで選手層はさらに薄くなった。現在12連敗中のチームはこのまま大惨敗が確実で、今季はリーグ最悪の成績に沈むこともあり得る。とはいえそうなれば、現行のロッタリーシステムでは、次期ドラフトでの上位4位以内の指名権が約束されるのだ。

アマーレ・スタウダマイアー、アンドレア・バルニャーニとの契約も切れる来オフこそが、ニックスにとってフランチャイズの未来を左右する重要な季節となる。今回の移籍劇で新たに約700万ドルのキャップスペースを作り出し、オフには約3000万ドルを補強に費やせる。フリーエージェントで1~2人のスター級を獲得し、加えてドラフトでも好素材を得ることができれば、エースのカーメロ・アンソニーの周囲に数人の新戦力を加えることができる。そんな道筋を作ったという点で、今回のトレードをまとめた意味は大きい。

ほぼ唯一のマイナス材料は、ディフェンダーとして使い道のあったシャンパートをキャブズの希望通りに放出せざる得なかったこと。ただ、シャンパートは今季終了後にFAとなるだけに、いずれにしても残留は微妙だった。だとすれば、ここで早めに未来へ踏み出したジャクソンの考えも理解できる。

現時点で骨抜きのロースターとなり、ひざの怪我に悩まされ続けているアンソニーも、地元でのオールスター終了後には長期休養することが濃厚だが、ファンは我慢するしかない。ニックスにとっての今季は次世代への通過点に過ぎない。ジャクソン球団社長、デレック・フィッシャーHC体制での新チームが真の意味で動き出すのは、2015年夏———。

後に振り返ったとき、今回のブロックバスター・トレードの「最大の勝者」がニックスだと考えられるようになったとしても驚くべきではない。現時点ではっきりしているのは、ファイナルアンサーが導き出されるのに、もうしばらく時間がかかるということだけである。

※サンダーがニックスへ譲渡したドラフト指名権は、2015年は1~18位プロテクト、2016年と2017年は1~15位プロテクトのため、それまでに譲渡されなかった場合、2018、2019年の2巡目指名権となる。

文:杉浦大介  Twitter: @daisukesugiura

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杉浦大介 Daisuke Sugiura Photo

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。