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[宮地陽子コラム第29回] 故郷に戻ったレブロンがメディアデイで見せた笑顔

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先週、クリーブランドのメディアデイの取材に行ったときのこと。レブロン・ジェイムズが再加入したキャバリアーズは、さすがに今シーズンの注目ナンバーワン・チームだけあって、全米、いや、全世界から取材しに来ていたメディアの数もすごかった。

NBA TVがその様子を生中継し、ESPNにいたってはスポーツセンターの臨時スタジオ・セットをコート上に組み、スタジオ用の本格的なカメラまで持ち込んで選手インタビューを中継していた。

練習場内のメディアルームではとても入りきらないため、建物の外に仮設テントでメディアルームを作り、駐車場は昼間に営業していない近くのレストランの駐車場を借りて、練習場までシャトルバスを出していた。

そのシャトルバスを待っている中に、ロサンゼルスで見慣れた記者がいた。この数年、ロサンゼルスでレイカーズ番記者を務めてきたESPNの記者、デイブだ。レブロンのキャブズ移籍を受けて、彼もロサンゼルスからクリーブランドに引っ越すことになったのだという。

彼だけでなく、ESPNのテレビ・プロデューサーも一人、クリーブランドに引っ越したらしい。かつてマイケル・ジョーダンの全盛期には、ジョーダンを年間通して取材するために他の都市からシカゴに移り住んできた記者が何人もいたけれど、今のNBAではほとんど聞いたことがない。レブロンの存在の大きさを痛感した。

その一方で、別の意味で印象的な光景があった。メディアデイ当日、分刻みで記者会見や写真撮影、ラジオやテレビのインタビューをこなしていたレブロンが、セットからセットに移る間で急に走り出し、スポーツセンターのセットに座っていたキャスターのところに走り寄ったのだ。

キャスターに挨拶してからキャブズのスタッフの元に戻り、「ごめん、ごめん、彼には挨拶したかったんだ」と言い訳をしていた。そのキャスターは実はクリーブランド郊外の出身。言ってみれば、レブロンにとっては同郷人だった。

同じような場面がもう一度、今度はトレーニングキャンプ初日の囲み取材が終わった後にも見られた。

囲み取材を終えたレブロンは、輪の外で写真を撮っていた一人のカメラマンに近づくと、しばらく会っていなかった親戚に会ったときのように嬉しそうに、満面笑顔で彼をハグしたのだ。実はこのカメラマンはレブロンが高校生のときからアクロン(レブロンの出身地の、クリーブランド郊外の街)の地元紙に勤め、レブロンの写真を撮り続けてきたカメラマンだった。レブロンにとっては、まさに古くからの友人か親戚に会ったような気分だったのだろう。

レブロンを追うメディアの喧噪と、地元の人を見たときのレブロンの嬉しそうな笑顔。この2つの光景は、今回のレブロンの移籍を象徴するシーンだ。

レブロンは地元に帰ってきたこと、地元のファンへの自分の影響力について、こう語っていた。

「僕が多くの地元の子供たちにとってお手本になっているということは理解している。子供たちは、いろいろな形で僕を尊敬してくれている。たとえばもう一人の親や兄のように、あるいはときにスーパーヒーローとして。夢が現実になるという励ましの種として、各家庭で必要なように僕を使ってもらえばいい。そうやって役に立てれば僕は幸せだ。僕自身も地元コミュニティに出て行くけれど、そのこと以上に、もっと僕の存在自体が子供たちの役に立てばと思っている」。

いくら温暖な気候の土地で華やかな生活を送ることができても、レブロンにとってマイアミの街は最後まで"自分の故郷"にはならなかった。一方、冬は寒く、レブロンがいなければESPNのレポーターもプロデューサーも住まないようなクリーブランドだが、そこにはレブロンにとって、子供の頃からの思い出や人情が詰まっている。この街では、NBA優勝することと同じぐらい、街の人たちの役に立ち、子供たちが憧れる存在となることも大事なことなのだ。

そんな故郷での、レブロンの挑戦第二章がいよいよ始まる。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji


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