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[宮地陽子コラム第28回] ボリス・ディアウがFIBA W杯で示したリーダーシップ

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コート上では、すばらしいパスセンスの持ち主であることは間違いないが、必要となれば器用にシュートも決められる割に、打つことに消極的に見えることも多い。ディフェンスやリバウンドに特に長けているわけではなく、ジャンプ力もあるわけではないが、必要な場面ではきっちりとリバウンドを獲り、ディフェンスも守りきることができる。

体型からもわかるように、ストイックに練習し、バスケットボールのためにすべてを犠牲にするタイプではないものの、その一方で、夏になるたびに休暇よりもフランス代表として大会に出ることを選んでいる。

1年前、ユーロ・バスケット(ヨーロッパ選手権)に出場した時に、夏のオフの期間ぐらい南の島でのんびりしたくないのかと聞かれ、ディアウは答えた。

「それも考えている。カリブでのんびりと人生を楽しみたいね」。

ディアウはそう言うと、一呼吸おいてから付け加えた。

「ただし、現役を引退してからだけれどね」。

フランスのユニフォームを着たときにディアウが見せるのは、リーダーとしての顔だ。

「ボリスはこのチーム(フランス代表)の顔だ。他の選手たちを助け、キャプテンとしてすばらしい仕事をしている」と、親友で子供の頃からの同士、トニー・パーカーも言う。

特にこの夏はパーカーが代表活動を辞退したこともあって、キャプテンとしての存在感がひときわ目立った。

たとえば、グループ・ラウンドで24点差をつけられて敗れたスペインと準々決勝で再対戦したときには、試合前に若いチームメイトたちに、自分たちの力を信じ、後悔がないように全力を出し切るように説いた。

「このあと試合がないつもりで、100%の力を出し切ろうと言った。人生でもそうだけれど、バスケットボールにおいて後悔はしたくないからね」とディアウは言った。「後悔したくない」というのは、ディアウが頻繁に口にするフレーズだ。

そのスピーチが効いたのか、準々決勝ではフランスが13点差をつけて勝利。

「僕らがスペインに勝てると信じていた人は多くなかった。しかし、自分たち自身が信じていた。そして、それをコートで示すことができた。それが嬉しい」とディアウは喜んだ。

スペインに勝ったことで少しだけ気が緩んでしまったフランスは、次の準決勝でセルビアに敗れた。終盤に追い上げて接戦に持ち込んだものの、あと一歩及ばなかった。

この試合後にも、ディアウはリーダーシップを発揮した。チームメイトたちをコート中央に集め、翌日の3位決定戦に勝ってメダルを取ろうと励ましたのだ。これまで世界選手権でメダルを取ったことがなかったフランスにとって、メダル獲得は大会前からの目標だったのだ。そしてその目標通り、セルビア戦の敗戦から18時間後に行なわれたリトアニア戦に勝利、銅メダルを勝ち取った。

ディアウにとって、去年夏から今年夏にかけては、バスケットボール漬けの1年だった。去年夏にはユーロ・バスケットを戦い、それが終わってすぐに始まったNBAのシーズンは、サンアントニオ・スパーズの成功もあって6月まで続いた。そして、パーカーが休養を選んだのに対して、ディアウは今年もフランスのユニフォームを着て、若手たちを率いていた。

その報酬は初めて手にした2つのメダルと1つのトロフィー。フランスにとって初のユーロ・バスケット金メダルと、ワールドカップ銅メダル、そしてディアウ自身初のNBA優勝トロフィーだ。

ワールドカップから数日たって、ディアウはフランスのメディアに、この1年間の出来事について、こう語っている。

「すばらしい1年だった」とディアウは言う。「優勝すること、メダルを取ることは簡単ではない。僕らもこの10年間、ずっと追いかけてきたのだから」。

まもなく、スパーズでのシーズンが始まる。そして来年夏は自国でのユーロ・バスケット開催。カリブの海辺でのんびりと過ごす毎日は、まだしばらく先のことになりそうだ。

文:宮地陽子  Twitter: @yokomiyaji


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