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[丹羽政善コラム第26回] ガソル兄弟 ――パウ&マークに期待されるファイナルでの兄弟対決

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先日、ニューヨークで行なわれたオールスターゲームでは、オープニングティップオフを史上初めて、パウ・ガソル(シカゴ・ブルズ)とマーク・ガソル(メンフィス・グリズリーズ)の兄弟が務めた。そもそも、過去に兄弟が控え選手として選ばれたことはあるが、オールスターに揃って先発出場したのは初めて。試合前のセレモニーでは、マーク、パウの順で紹介され、がっちりとハグ。歴史的瞬間だった。

ただ、同じ舞台に立つまでの過程は対照的。順調にキャリアを歩み、高い評価を受けてNBA入りした兄のパウに対し、弟のマークは、メンフィスで高校を卒業したにもかかわらず、アメリカの大学から奨学金のオファーはなく、母国スペインに戻って兄の背中を追うことになった。

クリスマスーー。兄・パウは、クリスマスツリーの下に置いてあるプレゼントを一度に開けることはなく、いくつかはその日の午後、あるいは翌日まで開けずにとっておくような子供だったという。また、包装紙は改めて使えるように、丁寧に包みを開けたそうだ。対照的に弟・マークは、プレゼントを次から次に開け、ビリビリに破いた包装紙は宙を舞い、本人曰く、「兄貴が2つ目のプレゼントを開ける前に、俺はもう、最初のおもちゃを壊していた」と振り返る。

オールスター前、ESPN.COMで紹介されていたエピソードだが、兄弟の性格の違いをよく表しているのではないか。

その頃の写真だろうか。スペインのタブロイド紙に少し前、兄弟の幼い頃の2ショットが掲載されたが、まじめそうな兄に対し、弟はいかにもいたずらっ子といった感じで、フレームに収まっていた。

7歳でバスケットを始めた兄・パウは、16歳で名門FCバルセロナのジュニアチームに入団。この頃、将来は母親同様、医師になることを目指していたというものの、その道を断念してバスケットに専念。すぐさま、ジュニア選手権でチームに優勝をもたらし、1999年に18歳でFCバルセロナと契約すると、2000−2001シーズンには、国内リーグとスペイン国王杯の両方でMVPを受賞するほど、別格な選手になっていた。

そのときの活躍が評価され、パウはその年の6月、ホークスから1巡目で指名(全体の3位)され、直後にトレードされたグリズリーズで、NBAキャリアをスタートさせることになる。

それを機に、家族全員でメンフィスへ。マークが16歳のときである。彼はこの時点で、兄に勝るとも劣らず身長が7フィート(2メートル13センチ)に達し、すぐさまバスケットの試合で活躍し始めたが、体重が300パウンド(約136キロ)を超えており、レベルの低いプライベートスクールのレベルでは通用しても、大学では無理との見方が多かった。当時、現ケンタッキー大ヘッドコーチのジョン・カリパリが地元のメンフィス大で指揮を執っていたが、やはりマークには興味を示さなかったという。

先ほどのESPN.COMの記事によれば、高校時代のチームメイトに、当時、グリズリーズの社長で、伝説的な選手だったジェリー・ウェストの息子がおり、マークはよくウェストの自宅に出入りしていたそう。しかし、ウェストもやはり、その体重に懸念を持っていたとのこと。ただ、兄がグリズリーズの選手で、友人の父親が同チームの社長という環境から、マークはグリズリーズの選手らのハードな練習を目の当たりにすることができ、それがきっかけで変わっていく。体重が疑問視され、アメリカの大学からは奨学金のオファーがなかったため、2003年春、彼は、兄と同じFCバルセロナから、NBAを目指す決断をしたのだ。

その経緯についてマークは、サム・スミスというバスケット界では知られた記者に対し、「帰って、自分を鍛え直す必要があった」と話している。

「メンフィスに引っ越してからの2年で、すっかり太ってしまった。本気でNBAを目指すなら、自立しなければいけないと思ったんだ」。

その努力が報われたのは、2006年に日本で行なわれたバスケットの世界選手権(現FIBAバスケットボール・ワールドカップ)か。準決勝で兄のパウが足を骨折し、ギリシャとの決勝戦を欠場すると、弟のマークが、その試合で兄の穴を埋める活躍を見せ、注目を集めたのだった。

翌2007年のNBAドラフトで、マークはレイカーズから2巡目(全体の48番目)で指名を受ける。スペインの所属チームとの契約が残っていた関係、またレイカーズがさほど契約に興味を持たなかったことから、マークは未契約のまま2008年を迎えたものの、2月1日、皮肉にも兄・パウとのトレードで、交渉権がグリズリーズに移っている。

このとき、レイカーズに有利なトレード、との見方があり、レイカーズがパウの獲得を機に、2008−09シーズンから連覇したことを考えればその通りだが、グリズリーズもマークの獲得で、再建の道標を得た。そう考えれば、“WIN-WIN”(ともに勝者)のトレードだったのではないか。

ちなみに、グリズリーズには、マークが大成する確信があったのだろうか?

兄はそのことを否定している。「僕は、何度もグリズリーズに、2007年のドラフトで指名するように訴えた。レイカーズが指名した後は、交渉権を獲得するよう迫ったが、興味を持ってくれたなかった」。

ただ、少なくとも、トレードの引き金を引いたグリズリーズのウェスト社長は、高校の頃からマークを知っている。あの頃からの成長を見て、これなら、という手応えを持ったのかもしれない。

いずれにしても、そうして同じNBAという舞台に立った2人。

当初、もちろん、兄の方が格上。2011年までにすでに4度もオールスターに選ばれていた。ところがやがて、立場が逆転していく。2008年にNBA入りしたマークは、ゴール下でリーグでも屈指の選手に成長し、2010-11シーズンには、チームの5年ぶりのプレーオフ進出にも貢献。一方のパウは、2011-12シーズンから故障が増え、2011年を最後にオールスターからも遠ざかった。

そんな弟のポテンシャルの高さを誰よりも知っていたのは兄。スミス記者の取材に答えている。

「僕がFCバルセロナのジュニアチームに入ったのは16歳だ。でもマークは、13歳のときにセレクトされたんだぜ。僕なんて、遅咲きだ」。

立場の逆転は、弟が、選手として脂が乗る時期に差し掛かり、対照的に4歳半年上の兄が年齢的な衰えを見せ始めた、と考えるのが自然だが、今季はパウが、往年を彷彿とさせるプレーを見せ、オールスターでの兄弟での同時先発出場を実現させている。レイカーズ時代、最後の数年はトレードの噂が絶えなかった。一方で、ブルズには求められて移籍した。そんな違いが透けるようでもある。

さて、ここまで来ると興味深いのは、ファイナルでの兄弟対決だ。

目下ブルズは、東地区3位。グリズリーズは西地区2位。ともにトップを走るホークス、ウォリアーズからは離されているが、ファイナルは射程圏と言っていい。

「弟とリングを争いたい」とパウが言えば、「そうなれば、激しい争いになる」とマーク。

兄弟対決は、オールスターからファイナルの場へと、持ち越されるかもしれない。

文:丹羽政善

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