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[丹羽政善コラム第21回] アンソニー・デイビス ――将来の米国代表とNBAを背負う若き万能ビッグマン

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D・ローズと同じ危険地区で育つ


生まれは、シカゴ・ブルズのデリック・ローズと同じシカゴのサウスサイド。親、兄弟にはいなくとも、親戚まで辿れば、ギャングのメンバーがいてもおかしくないとも言われる危険地区だ。ローズとは、今回の代表チームでもチームメイトだが、ともに幼い頃、一歩今違えば、犯罪に手を染めてしまってもおかしくない街で育った。

ローズは、幼い頃からポテンシャルを示すと、母親、兄弟らに守られながら育ち、高校もバスケットで有名なシメオンキャリア・アカデミー高校へ進学するなど、将来のNBA入りに向けて明確なレールが敷かれたが、一方でデイビスは高校に入るまで無名で、高校自体も無名校。大学やNBAのスカウトからは無視されるような学校だったそう。高校にはバスケットのジムがなく、近くの教会のジムを借りて練習するほどだったというから、レベルが知れる。

デイビスの存在が知られるようになったのも遅く、3年生になってからだという。1年生の終わりの身長は180cm程度。体の線が細く、アメリカではどこにでもいるような選手にすぎなかったが、3年生が始まるときに201cmにまで成長すると注目を集め、3年生の終わりになると、多くの大学から、奨学金のオファーが届いたそうだ。

4年生のシーズンが始まる前、彼はケンタッキー大学への進学を選ぶ。ところがそのとき、ある意味有名になった。地元の『シカゴ・サンタイムズ」紙が、入学の約束に際し、父親が20万ドルを要求したと報じたのだ。これが本当なら、一大スキャンダルである。しかも、バスケットの名門校ケンタッキー大が舞台となれば、注目度も変わってくる。

ケンタッキー大ではかつて、やはりリクルートスキャンダルがあった。そのときは、当時のアシスタントコーチで、現トロント・ラプターズのドウェイン・ケイシー・ヘッドコーチが、選手に金品を送ったとして、責任を取らされた。実際は、学校ぐるみでリクルート違反を起こしていたようだが、ケイシーに罪を被せて、体裁を守ったというのがもっぱらの見方である。

デイビスの場合、果たして真相は? というところだが、その記事に対し、ケンタッキー大とデイビスの父親は、ネットからの削除、新聞で謝罪することなどを求め、訴えることも示唆、徹底抗戦の構えを見せている。すると、一時的にその記事は、ネットから消えたという。ところがまもなく、今度は新しい記事が出た。

「デイビスの父親が要求したのは、12万5000ドルから15万ドルのようだ」。撤回ではなく、あくまでも訂正だった。

これにはもちろん、大学もデイビスの父親も激怒したが、なぜか、当時の記事などを読み返しても、訴えたとは書いていない。デイビスはそのまま進学しており、何事もなくNBA入りした。極めて不可解な決着で、事実は今も曖昧なままだ。

大学でスキャンダルをかき消す大活躍を見せ、NBA入り


そう言えば、メンフィス大へ進学したローズにも、入学に絡んだスキャンダルがあった。

同じシカゴ・サンタイムズが、大学に送られる高校の成績が「D」から「C」に変更されたと報じ、さらには大学へ入るためのテスト「SAT」に関しては、替え玉受験疑惑がある。調査の結果、替え玉受験の事実までは証明されなかったが、NCAA(全米大学体育協会)は、メンフィス大の2007-08シーズンの成績を抹消処分している。その年、メンフィス大はローズに率いられて、NCAAトーナメントで準優勝したが、その事実も公式にはなかったことになっている。

ちなみに、デイビス、ローズを巡る疑惑に絡んだ大学でヘッドコーチを務めていたのは、ともにジョン・カリパリだ。彼は、マサチューセッツ大でヘッドコーチを務めているときにも、後にニックスなどで活躍するマーカス・キャンビーが代理人から金銭を受け取っていたとして、記録が抹消された過去を持つ。

話を戻せば、デイビスは疑惑の中でケッタッキー大に進学したが、スキャンダルをかき消す活躍を続け、シーズンの最後には主だった個人賞を総なめ。また、チームはNCAAトーナメント決勝でカンザス大を下して優勝し、2012年6月のNBAドラフトで彼は、ニューオーリンズ・ホーネッツ(現ペリカンズ)から、全体1位指名を受けている。高校卒業時点でドラフト1位候補との評判は伊達ではなかった。

その後のNBAシーズンでのプレイぶりはもう、知られる通り。1年目の平均得点は13.5点だったが、昨季は20.8点にまで伸びた。また、大学時代から知られたブロックショットのスキルには磨きがかかり、昨季は1試合平均2.8をマークすると、タイトルも獲得している。

過去2シーズン、故障が重なり、フル出場できていないとの指摘はあるが、高校時代はガードを務めたこともあることから、ビッグマンでありながら、ボールハンドリングも上手く、オールラウンダーとしての能力にも優れている。その非凡さこそが、将来のNBAを背負うと言われる所以であるのだろう。今回のワールドカップでも改めてそのことを証明している。

さて、そんな彼のトレードマークと言えば、繋がった眉毛。英語では、「UNIBROW」と呼ぶが、それにちなみ、「Fear The Brow」(眉毛を恐れよ)と「Raise The Brow」(眉毛を上げろ)という二つの言葉を登録商標し、自分の特徴を利用している。それで儲かったという話は聞かないけれど――。

文:丹羽政善

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