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[2016-17シーズン戦力分析]サンアントニオ・スパーズ

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NBA.comのショーン・パウエル記者が2016-17シーズンを迎える全30チームの戦力を分析するシリーズコラム。第29回は、サンアントニオ・スパーズ編をお届けする。


2015-16シーズン成績:67勝15敗

新加入選手:デジョンテ・マレー、ドウェイン・デッドモン、パウ・ガソル、デイビッド・リー、デイビス・ベルタンズ

退団選手:ボバン・マリヤノビッチ、ボリス・ディーアウ、ティム・ダンカン、デイビッド・ウェスト

1999-2000シーズンから続く年間50勝ラインを昨季もクリアしたばかりか、球団新記録となるレギュラーシーズン67勝をマークしたにもかかわらず、サンアントニオ・スパーズは昨プレイオフでウェスタン・カンファレンス・セミファイナルまでしか勝ち上がれなかった。

バスケットボールに真摯に向き合ってきたこのチームにとって今夏最大の出来事は、ティム・ダンカンの現役引退だ。彼はコート上での姿と同じく、静かに、注目を集めることを由とせず、去っていった。

あまりにもダンカンらしい最後だった。お別れツアーをやるわけでもなく、たった一枚の声明をチームから発表したのみ。引退会見すら行なわなかったのだ。なんと綺麗さっぱりした手法だろうか? たいていのアスリートは、シーズン終了後ではなく、開幕前に引退を公表する。彼らのエゴと、自尊心がそうさせるのだろう。キャリアを通じて残した功績を称えられるだけでは不十分と感じ、最後に称賛されて然るべしと考えているからだ。それも、全ての功績を――。しかしダンカンは、グレッグ・ポポビッチ・ヘッドコーチに電話で引退の旨を伝え、それから情熱を注いでいる趣味の車いじりを始めたという。

ダンカンがスパーズやNBAに残した功績を今さら書き起こす必要などないだろう。そんなことは、誰もが知っているのだから。

昨シーズンは、残念ながらダンカンにとって優しいものではなかった。プレイオフまでは一定時間しか出場時間を与えられず、ポストシーズンでも衰えを隠せなかった。ダンカン自身も、潮時であることを理解していた。

そして、ダンカン抜きでチームを回さなければいけない時代が到来した。何とも不思議に思えるが、避けられなかったことだ。スパーズにとっての朗報は、カワイ・レナードがチームの中心を担えるだけの選手に成長したということと、昨年の夏に加入したラマーカス・オルドリッジが1年目の昨季、特にプレイオフでポジティブな結果を残したことだ。これからは、チームに合う選手を集め、優勝争いに加わり続ける時代に変わる。まさしく今夏、ポップとGMのRC・ビュフォードが成そうとしたことだ。


スパーズ2年目のラマーカス・オルドリッジ

まずはフリーエージェントのパウ・ガソルを口説き落とすことに成功した。基礎レベルが高く、アンセルフィッシュで、コーチの言うことに耳を傾け、攻守で貢献してくれるガソルは、スパーズ向きの選手だ。問題は、あとどれくらい燃料タンクにガソリンが残っているか、だ。36歳のガソルは、今の段階ではロールプレイヤーとしてしか貢献できないかもしれない。だが、仮に出場時間に制限が必要だとしても、クオリティの高い選手を求めたスパーズにとっては問題ない。

ガソルは、ユタ・ジャズにトレードされたボリス・ディーアウ、FAとなってデトロイト・ピストンズに移籍したボバン・マリヤノビッチの穴を埋める存在になるだろう。昨シーズンまでと比べてペイントの戦力が薄くなったと感じるかもしれないが、優勝を争う最大のライバル、ゴールデンステイト・ウォリアーズはスモールボール・ラインナップのスペシャリストであるため、さほど影響はないはずだ。万が一に備え、スパーズはデイビッド・リーも格安で獲得している。ひょっとすると、カイル・アンダーソンの出場時間が増える可能性もある。ダンカン時代から脱却し、新時代を築くことにやりがいを感じなければ、ポポビッチHCがチームに残ることはなかったはずだ。

またスパーズは、アルゼンチン代表としてリオデジャネイロ・オリンピックに出場した39歳のマヌ・ジノビリと1年契約を締結した。彼以外にも、キャリア16シーズン目を迎えるトニー・パーカーのことも検討すべきだ。ある意味、スパーズは多方面で“熟しすぎ”と言わざるを得ない。

いずれにしても、ダンカンのケースと同様、ジノビリとパーカーの後を引き継げる選手を見出さなければいけない。より差し迫った課題は、ポイントガードのパーカーの後釜探しだ。今のところ、パーカーの代わりを務められる選手はロスターにいない。ということは、昨季と同様、パーカーには今季も1試合平均25~30分程度の出場が求められるということだ。


ブルズから新加入のパウ・ガソル(左)とスパーズ一筋16年目を迎えるトニー・パーカー

2016年ドラフトで獲得したデジョンテ・マレーは、バックコートの選手としてはサイズ(196cm)もリーチも十分だが、PG専任ではなくコンボガードであること、そして弱冠19歳という年齢も考慮すべきだ。優勝争いに加わるようなチームで即戦力となることは期待できない。

これで、さらに戦力を強化したウォリアーズ、ロサンゼルス・クリッパーズ、そのほかウェストの頂を狙うチームを相手に、これまでと同様の勝利数、ポジションを維持できるのだろうか? 今夏FAとなったケビン・デュラントと交渉する機会は与えられたものの、球団とポポビッチに対する礼を欠く対応だった。ガソルが今季もオールスター級の活躍ができると踏んだこと以外に、スパーズは大きな補強をしなかった。昨年オルドリッジを獲得したときと比べれば、状況はかなり異なる。

しかし、年間67勝をあげたチームのさらなるレベルアップなど、現実的な話ではない。過去の歴史、ロスターの実力、コーチの手腕を考えれば、スパーズはウェストの混戦に加わる方法を導き出すだろう。そして、もし優勝候補大本命のウォリアーズが躓くようなことがあれば、何が起こっても不思議ではなくなる。

彼らは、この15年間チームの魂であり、球団の姿勢を具現化してきたダンカン抜きで今シーズンを戦わなければならない。それは、今のスパーズにとって未体験のことだ。

原文:30 Teams in 30 Days: Spurs expect to keep moving forward by Shaun Powell/NBA.com


2016-17シーズン NBA全30チーム戦力分析


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NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ