NBA

[2015 ユーロバスケットMVP] 母国スペインを欧州王者に導いたパウ・ガソル (青木崇)

Author Photo
Sporting News Logo

今から8年前、パウ・ガソルは最後のシュートが外れた直後フロアに倒れ、しばらく頭を抱えたまま呆然としていた。

地元開催の2007 ユーロバスケット(欧州選手権)。世界王者として臨んだスペインは、決勝でロシアに59−60のスコアでまさかの逆転負けを喫した。ガソルはスペインの大黒柱として大きな期待を寄せられていたが、第4Qだけで4本のフリースローをミス。さらに、残り2秒でJ.R.・ホールデンの決勝点へとつながる痛恨のターンオーバーを犯していた。

それから9か月後、ガソルはロサンゼルス・レイカーズのメンバーとしてNBAファイナルに進出する。だが、2勝4敗でボストン・セルティックスに敗れ、優勝を逃すという結果に終わると、「メンタルタフネスが足らない」、「ソフトだ」と、ファンやメディアから批判のターゲットにされた。その後、2009年にオーランド・マジック、2010年にセルティックスを倒してNBA2連覇を達成したが、ガソルに対するこういった評判はいまだに残っている。

とはいえ、ガソルがすばらしい能力と実績を持つビッグマンであることは否定できない。2度のNBAタイトル獲得、NBAオールスター選出5回。スペイン代表としては、2006年の世界選手権金メダル、五輪で2度の銀メダル、ユーロバスケット制覇3回に大きく貢献している。

特に今回のユーロバスケットでは、セルビア、イタリアに敗れ、グループラウンド敗退の危機に直面したチームの救世主となった。決勝トーナメントに進むと、プレーの質はさらにパワーアップしていったのである。

ベスト16のポーランド戦は、フィジカルの強いマーチン・ゴータット相手にシュートレンジの広さを見せつけ、6本の3ポイントシュートを含む30点をマーク。「あのようなシューティングをされては試合に勝てない」と言わせるほど、ゴータットを圧倒した。準々決勝でもコスタ・クーフォス、ヤニス・ブルーシスという屈強な選手たちを相手に27点を記録し、ギリシャに2点差で競り勝つ要因となった。

準決勝のフランス戦は、ガソルの長いキャリアの中でもベストの試合かもしれない。2年前にユーロバスケット3連覇、昨年のワールドカップでメダル獲得を阻止された相手に、“今度は我々がやり返す番”という強い気持ちで試合に臨んでいた。

218cmの身長と長い腕、高い跳躍力を生かしたディフェンスがすばらしいルディ・ゴベールにマッチアップされても、持ち味のスキルを存分に発揮。ポストアップからフックショットやフェイダウェイ、フットワークとフェイクを生かしたアップ&アンダー、スクリーンからポップアウトしてのジャンプシュート、ドライブからのダンクを決めて40点を奪い、スペインを勝利に導いた。

「ヨーロッパでは(NBAと)ルールが違う。使えるのが片腕だけだから、ポストでのディフェンスはハードだよ。タッチできないから、ガードするのは厳しい。手を使えなければ、彼は止めようがない」と、ゴベールはレフェリーの笛に対する不満を口にした。それでも、今回はガソルの持つオールラウンドな能力と、「重要な選手がここにいないのをわかっているから、自分がより責任感を持ってやることの必要性を感じていた」というリーダーシップが、フランスの2連覇を阻んだと言っていいだろう。

「チームメイトに刺激とモチベーションをもたらすことを心がけることを、毎試合やろうとしているんだ」。

35歳という大ベテランになっても、ガソルには衰えがほとんど感じられない。ビッグゲームを支配した強烈な存在感は、決勝戦以前の時点で大会MVPと呼ばれるに相応しいものであり、リトアニア戦との決勝でも、ガソルはジョナス・バランチュナス相手に25点、12リバウンドをマークした。


Pau Gasol, Spain, Photo by FIBA.com

スペインを優勝に導いた後、「すばらしいトーナメントだったから、個人的には一生忘れることはないだろう」と、自身のパフォーマンスを振り返ったが、来年のリオで新たなチャレンジが待ち構えている。それは、打倒アメリカを実現しての金メダル獲得だ。激戦を勝ち抜いて間もない会見の中で、ガソルはその機会を望んでいることを明言した。

「行きたいのはまちがいないし、ここでリオ五輪の出場権を獲得することが、我々のゴールだった。自分の体調に問題がなければ、このチームの一員として4度目の五輪に出て、メダル獲得を目指したい」。

文:青木崇 Twitter: @gobluetree629

[関連記事]

2015 ユーロバスケット総括リポート(青木崇)

[2015 ユーロバスケット総集編] 激戦の欧州をスペインが制す

著者
NBA Japan Photo

NBA日本公式サイト『NBA Japan』編集スタッフ