[斎藤千尋コラム第1回]SportVUのトラッキングデータが広げる可能性
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[斎藤千尋コラム第1回]SportVUのトラッキングデータが広げる可能性

今シーズン、キャリアベストのスタッツを残しているデアンドレ・ジョーダン(ロサンゼルス・クリッパーズ)と、昨シーズンのプレイオフから存在感を示しているロイ・ヒバート(インディアナ・ペイサーズ)。彼らはリーグを代表するセンターだが、どちらがより脅威になるだろうか?

ブロックショットはジョーダンが1試合平均2.4本、ヒバートが2.6本とほぼ同じだが、この2人には決定的な違いがある。2人がゴール下でディフェンスしているときの相手オフェンスのフィールドゴール成功率は、ジョーダンの51.9%に対し、ヒバートは40.5%とヒバートのほうが10%も低いのだ(数字は1月26日時点)。

以前はこのようなデータを取ることはできなかったが、それもNBAが今シーズンから導入したSportVU(スポート・ビュー)によってデータ化できるようになった。

NBAが巻き起こすビッグデータ革命(Big Data’s Full-Court Press)」という記事がニューズウィーク日本版オフィシャルサイトに掲載されたのは、シーズンが始まって間もない11月中旬のことだった。この記事によってNBAが今シーズン、SportVUという最新テクノロジーを導入したことを知った人は多いのではないだろうか。

本稿では、
1. SportVUはどのようなデータを提供するか
2. NBAがSportVUの導入に踏み切った背景
3. SportVUの今後の可能性
という3つのテーマについて解説したい。

1. SportVUはどのようなデータを提供するか

SportVUはもともとイスラエルの企業がミサイル追跡のために開発していた技術を転用したものだ。現在はアメリカのSTATS社が各種スポーツ向けに提供している。

SportVUではアリーナのハーフコートに3台ずつ合計6台のカメラを設置し、毎秒25回ずつ各プレイヤーとレフェリーのコート上での位置、ボールについてはコート上での位置と高さを記録する。収集されたデータはそのままではただの位置情報のため、STATS社のサーバーに送られソフトウェアによって特定のルールに従って加工された上で、90秒以内にレポートとして各チームに提供される。

チームには上記レポートと生データが提供されるが、ファン向けにもSportVUで取得し加工したデータ(プレイヤートラッキングデータ)がstats.nba.com(※)で公開されている。

※stats.nba.comはNBAが1年前にソフトウェアパッケージ大手企業であるSAPの協力を得て、過去の試合結果、スタッツ(アドバンストスタッツ含む)を提供しているサイト。今シーズンから新たにプレイヤートラッキングデータが加わった。他のスタッツ同様、ファンはこのサイトで自由にプレイヤートラッキングデータの検索や絞り込みができる。具体的に提供されているデータは、「Speed and Distance(移動速度と移動距離)」「Touches/Possession(ボール接触回数や接触位置)」「Passing(パスとアシスト、得点機会の演出)」「Defensive Impact(ディフェンスとリング周辺での守備)」「Rebounding Opportunities(リバウンド機会)」「Drives(ドライブ)」「Catch and Shoot(キャッチアンドシュート)」「Pull Up Shots(ドリブルからの得点)」「Shooting Efficiency(全体的なシュート効率)」の9カテゴリー。以下に簡単に紹介する(※詳細はhttp://stats.nba.com/playerTracking.htmlを参照)。

・Speed and Distance:プレイヤーの移動距離と移動速度。

・Touches/Possession:ボールタッチ回数、保持時間、ボールタッチ1回あたりの得点、ボールタッチ時の位置(ゴール近辺、エルボー)。

・Passing:パスの回数、アシスト数、FTにつながるパス(FTアシスト)回数、セカンダリアシスト(アシストにつながるパス)数、アシスト機会(アシストにつながるパス回数、シュートの成否不問)、アシストによって生み出した得点。

・Defensive Impact:スティール、ブロックショット、ゴール近辺(5フィート以内)での相手のFG成功率。

・Rebounding Opportunities:リバウンド機会(プレイヤーの3.5フィート以内にリバウンドが落ちた回数)、リバウンド機会のうちどれだけ確保したか、競ってリバウンドを確保した回数。

・Drive:ドライブ回数、ドライブによる得点(プレイヤー本人、ドライブからのアシストの両方)、ドライブ時のFG成功率。

・Catch and Shoot:10フィート以上の距離からパスを受けてすぐ放ったシュートの数や成功率。

・Pull Up:ドリブル後に放ったシュートの数や成功率。

・Shooting Efficiency:ドライブ、近距離シュート、キャッチ&シュート、プルアップシュートの得点と成功率。シュート効率を全体的に見る。


つまり、SportVUによって、これまでは想像することしかできなかった各プレーの質や文脈を、データとして取得することができるのだ。

リバウンドを例にとると、シュートが外れてプレイヤーの3.5フィート(約1.06m)以内に落ちたボールを「リバウンド機会」と定義することで、「リバウンド機会のうちどれだけの割合のリバウンドを確保したか(Percentage of rebounds per chance)」というリバウンド数の質をデータ化することができる。

また、「競りあって確保したリバウンド本数(Contested Rebounds per game:リバウンド確保時に相手が3.5フィート以内にいた)」を定義することで、リバウンドを確保した際の状況(文脈)をデータ化することができる。

ウィングのプレイヤーであれば、フリーのリバウンドを確実に確保することが1つのスキルとなるし、インサイドのプレイヤーであれば競り合って確保したリバウンドが多いほうが評価されることだろう。

上記の例のように、これまでのスタッツに「質」「文脈」といった情報が加えられ、スタッツは新しいフェーズに入ったといえるだろう。

2. NBAがSportVUの導入に踏み切った背景


なぜNBAは今シーズンからSportVUの導入に踏み切ったのか?

実は、以前よりNBAでもSportVUを導入しているチームがあり、2012-13シーズンの段階ではNBA30チーム中15チームがこのテクノロジーを導入していた。

2月1日にNBAコミッショナーに就任したアダム・シルバー氏は以前、インタビューで「各チームが個別に導入し、それぞれデータを作成することによる非効率性の解消」、「データを公開することにより熱狂的なファンをよりゲームに惹きつけることができること」、「15チームがすでに導入していたという事実は、リーグ全体で導入するために十分な裏付けとなる」と答えている。


リーグの半分のチームが個別にデータを取得している状況と、全30チームのホームゲームでデータが取得され一元管理されている状況では、得られるデータの量・信頼性も格段に変わってくる。

一方でインタビューの中でシルバー氏はSportVUのデータの活用について「核となるデータの提供はするものの、それ以上のデータの活用について各チームにリーグからガイドを示すことはしない。正直どれだけ活用できるかはチーム次第。ビジネス界から来てデータ分析に慣れ親しんだ新しいオーナーたちがいることで活用が進むだろう」とも語っている。

3. SportVUの今後の可能性

シルバー氏のコメントにある通り、データというのものは持っているだけでは価値はなく、どう活用するかで本当の価値が決まる。裏を返せば、どのようにデータを活用するかはまだまだ模索中であるともいえる。

今後のSportVUのデータ活用の方向性についていくつか書いておきたい。

まずはファン向け。現時点ではstats.nba.comでのトラッキングデータの提供だけだが、今後はTV放送や動画配信と組み合わせることで、新しい観戦方法を体験できるようになるだろう。

放送中の映像や手元のタブレットに、トラッキングデータを使ってビジュアル化された各プレイヤーやチームの得点パターン、得点の多いエリアの図を表示することが考えられる。得点につながりやすいパスのルートを動画に重ねて表示することで、ボールを持っていないプレイヤーの動きに目が行く、ということもあるかもしれない。

このようにゲームの映像に分析データの映像や画像を重ねることによって、ゲームをより深く理解でき、違った角度から観戦することができるようになるだろう。

同時に映像での観戦方法が充実することで、ビジネスの拡大にも効果を発揮するだろう。

映像の価値が高まれば、放映権契約時にリーグやチームが有利な条件で契約ができるようになる。また、放送時のスコア表示にスポンサーがあるように、表示される画像に対してスポンサーを付けることも可能だ。

スカウトやプレイヤーの査定にも活用できる。スタッツとその質や文脈についてもデータ化されているため、チーム戦略を踏まえて必要なプレイヤー(例:ウィングでリバウンドを確実に取れるプレイヤー)を、データを元に探し出すことが容易になる。

査定の際にも、これまで評価されにくかったゴール下のディフェンスや第4クォーターでの運動量(移動距離・速度)といった指標で評価することができるようになる。

なお、選手会はデータの活用で選手が不利にならないよう、クロスチェックのためにプレイヤーのデータへのアクセス権を求めている。

一方でコーチ陣にとってはデータの活用はそれほど簡単ではないだろう。現時点では一般に公開されている範囲は各プレイヤーのトラッキングデータだけだが、各チームは生データを使ってより高度な分析を試しているはずだ。


プレイヤー単独の分析だけではなく、セットプレーなどのチームによるプレーの分析も可能だ。例えば対戦するチームのセットプレーのうち、成功率(1ポゼッションあたりの期待得点)が高いものをピックアップし、重点的に対策を練習するということも可能だ。

対策の中ではレブロン・ジェイムスのような特定のプレイヤーがボールを保持している際に、シュートとパスのどちらの期待得点が低いか分析し、低いほうに誘導するようにディフェンスするということも考えられる。

場合によっては直感的にわかっていたことを裏付けるだけのデータが出ることもあるだろうし、対策したセットプレーが使われなくなることもあるだろう。

大量のデータが得られたことで何でも分析ができるようになるが、一方で目的を持った分析をしないと、やみくもに分析に時間とコストがかかってしまい、分析結果を練習やチームの戦力向上に反映させられなくなる。

分析の前に明確な目的を持ち、結果を得るための正しい問いを立てられるか。それが今後の活用に大きくかかわってくるだろう。

文:斎藤千尋(ビジネスコンサルタント/INSIDE NBLコラムニスト)
Twitter: @orihich
Blog: http://nbainbusiness.wordpress.com/

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